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episode47.大切な新しい生命
有難いことに漫画家として、仕事が安定してきた。
二作品同時連載も無事に連載を最後まで完走し、良い反響をもらえて終えることができた。
今は二作品同時に連載していた作品の単行本作業と、新連載に向けて奮闘中だ。
最近、とても充実している。順風満帆…とはこのことであろう。そう思えるくらい、仕事に対して心に余裕が生まれ始めていた。
そんな時だった。美咲くんが真剣な顔をして伝えてきた。
「茜、そろそろ俺達の将来について真剣に考えないか?」
最初は美咲くんの話の意図を理解することができなかった。
既に結婚しているというのに、今更何を考える必要があるのだろうか。
終活にしては早すぎる。早いに超したことはないが。
「私達の将来って......?」
私の中で結婚=ゴールと思っていたのだと、美咲くんの言葉の続きを聞いて気づかされたのであった。
「そろそろ俺達の子供が欲しいって思ってる。茜は子供についてどう考えてる?」
何も考えていませんでした…なんて口が裂けても言えない。
でも何も考えていないのは事実なので、嘘をつくことはできない。
「えっと…その、ごめんなさい。何も考えてませんでした……」
真面目な話の時、嘘をつくのはダメだ。正直に自分の気持ちを包み隠さずに話すべきだ。
「そんな予感はしてた。だからこれから二人でゆっくり考えていきたいなって思ってる。茜も仕事のことがあるだろうから、茜の気持ちを一番に尊重したい。俺は自分達の子供が欲しいと思うけど、子供がいなくても二人で幸せに生きていきたいとも思ってる」
出産するのは私なので、私に決定権がある。美咲くんなりに私に選択肢を増やして、選びやすいようにしてくれている。
その気持ちは嬉しいが、正直今は仕事が楽しいので、自分達の子供について考える余裕がない。
「そう言ってくれてありがとう。でもごめん。今はまだ何も考えられない…」
仕事が軌道に乗り始めたばかりだ。仕事のことしか考えられない。このタイミングで仕事に穴を空けるなんて絶対にできない。
もし穴を空けて、仕事を失うことになったら…。それは怖い。今の私には仕事が必要不可欠だから。
「そうだよな。ごめん。無理言って…」
私の気持ちを知って、美咲くんは悲しい表情を浮かべていた。
自分の奥さんに冷たく拒絶されたら、悲しいのは当然だ。私も美咲くんに同じことをされたら傷つく。
だからといって子供について考えらえるかどうかは別問題だ。夫婦の営みも含め、今はまだそういったことに意欲的になれない。
仕事のことだけ考えてはいられない。いずれ直面する問題だ。私も真剣に考えなくてはならない。
今の自分の気持ちに嘘はつけない。仕事に集中したいから。
だけど自分の年齢も考えると、ゆっくりしていたらあっという間に年齢だけを重ねてしまい、出産のリスクも高くなる。
考えなくてはならないことがどんどん増えていく。自分達の将来だからこそ、真剣に考えなくてはならない。
急に現実味が帯び、年齢という焦りが募り始める。私には選択が迫られていることを分かっているようで分かっていなかった。
この気持ちをどうしたら良いのか分からず、同世代の友達に聞いてもらうことにした。
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