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「……あのさ」
やがて、壁にもたれて黙り込んでいた勇雄が、暗い声を発した。
「あのさ、気を悪くしたら悪いんだけど、さ、空」
「何?」
「……本当に、お前の仕業じゃ、ないんだよな?」
流石に、あっけに取られるしかなかった。清香に疑われるのならまだしも、まさか勇雄にまでそんなことを言われるなんて。
何故、自分の仕業だなんてことになるのか。おまじないや魔術に興味はあったが、それも過去ことである。しかも、当時の自分は小学生だ。ちょっとそういう文献を読みあさっていただけの子供に、一体何ができるというのだろう。
「勇雄は、おまじないの類をなんだと思ってるの?いくらなんでも怒るよ?そんなものが好きだったってだけで疑われたんじゃたまらないよ」
流石にこれはキレてもいい指摘だろう。空が不機嫌に言い放てば、ごめん、と素直に勇雄は謝ってきた。――彼は清香と違い、悪いと思えば一応謝ることはできる人間だった。むしろ、清香に言われてやりたくないものを押し付けられがちなポジションこそ、彼であったから尚更に。
「おまじない好きだったってのもあるけど……それだけじゃなくて、なんつーか……その……まあ、お前に限った話でも、ないんだけどさ」
彼はやや歯切れの悪い調子で、告げる。
「死んだ奴にこんな言い方をしたらあれだけど。あいつは……清香は正直、恨みを買っても仕方ないって俺は思ってたからさ。だから死んだんじゃないか?清香が死んで終わったんじゃないかって正直思ってる。本人は、悪いことなんか何もしてないのに、みたいなこと言い張ってたけど」
「恨みを買っても仕方ないって、なんで……」
「それをお前が言っちゃうかよ。心当たりあるだろ。あいつ、昔から……都合が悪いことは全部人に押し付けて、自分はさっさと逃げるようなずるいところあったじゃねえか。口では友達だ、仲間だって言っておきながら、本当にそう思ってんのか?みたいに俺はちょっと感じる時少なくなかったし。外でワゴン車に襲われた時だって、へたりこんでる希美ほっぽって最初に校舎に逃げ込んだのはあいつじゃねーか。タイムカプセル開ける件だって、あいつがやりたいやりたい言い出したのに、結局自分じゃ全く穴掘り参加しねーし……」
驚くほど、すらすら清香への不満が出てくる。空は驚いていた。彼はいつも、清香の後ろにひっついている――いわば忠臣か何かのような印象があったから。
「勇雄は、清香のことが嫌いだったの?」
空が尋ねると。勇雄は眼を泳がせて――やがてこくり、と頷いた。
「正確には。嫌いっつーより……怖かったんだ、ずっと」
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