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「で、直前にあいつがこっそり男子の部屋に来てたこともあって……その部屋に泊まってた男子グループが疑われてさ。特にお前のことは相当責めてた。お前が盗んだんじゃないかって散々言われてたけど……空、本当に覚えてないのか?」
「ご、ごめん。なんだか記憶があやふやで」
「そ、そうか。じゃあ、思い出さない方がいいかもな。……結局女子の部屋にネックレスは落ちててさ、疑いは晴れたんだけど……あいつ、無実の人間を散々犯罪者扱いしたくせに、結局謝らなかったんだよな。それどころか、日頃から疑われるようなことをくる方が悪いのよ!と開き直ってきたもんだ。俺はそれ見てさ……正直ついてけねぇと思ったんだよな。でもって……何がなんでもこいつだけは敵に回しちゃいけねーなって……」
あのさ、と。心底気まずそうに、勇雄は告げた。
「……俺。お前が悪くないの、わかってたんだよ。お前はネックレスなんか盗むような奴じゃないし……清香が物をなくして騒ぐのも初めてじゃないし、きっとまた冤罪だろうなって。わかってたのに、助けてやれなかった。それがずっと気になってて、引っ掛かってて……覚えてないのかもだけど、今更だけど……ごめん。謝らせてくれないか」
驚いてしまった。屈強な勇雄に、思いきり頭を下げられたのだから。空は慌てていやいやいや!と手を振った。
「き、気にしないでよ!ていうか覚えてないし!そんな謝られても困るし!」
「で、でも……」
「そ、それよりもさ!今はどうやって此処から無事に逃げるかってことを考えた方が先決だし!清香のことも……あのままほっとくなんて気の毒だし」
「空……お前、本当にいい奴なのな」
少しだけ目に涙を滲ませながら、勇雄は言った。勇雄もあの時とはだいぶ印象が変わったが、それでも涙もろいもころや気遣いができるところは変わってないなと感じる。
清香の金魚のふん、なんて言われていたけれど。彼は本当は、自分の意見をしっかりと持っている人間だったのだ。死んだ人間の悪口を言うのは、あまり感心できることではないにしても、である。
「言いたいことはわかるさ、空。ただ、もう一つだけどうしても言いたいことがあるんだ」
ちらり、と。勇雄はトイレのドアを見て――少しだけ距離を取ると、ちょいちょい、と空を手招きした。なんだろう、と思って近付けば、彼は小声になって囁いてくる。
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