<1・タイムカプセル>

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――うう、嫌すぎる……。  空はと言えば、心底憂鬱でならなかった。元々このメンバーの中で、空だけが圧倒的なフツメンだったというのもある。筋肉ムキムキで日焼けした爽やかスポーツマンの勇雄は、隣の美女二人と並んでいても全く見劣りしない。希美と比較してもさほど身長が変わらぬ、小柄で子供みたいな顔をした空は明らかに一人だけ浮いている。  そして最大の理由は、そのタイムカプセルだ。  ああ、あの時の自分は本当にどうかしていたのである――あのカプセルには、自分の痛すぎる青春、ぶっちゃけ黒歴史が封印されているのだ。 『おまじないが好きなんて、空ってば女の子みたーい!ねえねえ、何をお願いしてるのー?』 『う、煩いな!ほっといてくれってば!』  子供の頃から引っ込み思案だった空は、毎日休み時間になるたびノートに小説ばかりを書いていた。空想の世界ならば、つまらない現実などいくらでも忘れることができるからだ。新しい自分になる物語、いっそ自分なんてものさえ存在しない物語。空想や幻想に耽るばかりだった空が同じだけハマりこんだのが、いわゆる“おまじない”だとか“魔術”だとか言われる類いのものだった。  不思議な力が使えるようになったら、どれだけ楽しいだろう。  誰にも立証できないような力を手にしたら、どんなに面白い毎日を過ごせることだろう。  そう思いながら、ついに空が手を出してしまったのが――“大好きな人と結ばれるおまじない”であったのである。  つまり、当時ひそかに片想いをしていた相手――希美と、だ。 『一番最初に、希美がタイムカプセルを開けたら……希美と一緒になることができる。』  正直に言って、どんなおまじないをやったのかは全然よく覚えていない。ただ人に聞いただかネットで調べたかしたおまじないを試して、ラブレターをこっそり中に紛れ込まれたことだけははっきりと覚えているのだ。  あの時の自分は、酒を飲んだわけでもないのに何かに酔って、頭のネジが飛んでいたとしか思えない。そんなもの、数年から数十年後の自分と仲間達が見て何を思うのかなど明白ではないか。たまたま希美は今でも既婚者ではないらしいが、だからといって彼氏がいない保証はない。小学校時代にツルみ、今も地味メンなままの作家モドキから貰ったラブレターなど、嬉しくもなんともないに決まっている。  それどころか、恥をかかせてしまいかねない。お祭り騒ぎ大好きな清香と勇雄が一緒だから尚更だ。今日の空の最大のミッションはひとつ。とにもかくにも、タイムカプセルが開かれると同時に手紙だけでも回収し、黒歴史が皆の目に触れられるのを阻止することである。
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