<1・タイムカプセル>

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――希美がタイムカプセルを最初に開けたら……とかなんとかいうのだけど、それはもういい!つーか、子供の頃のおまじないなんか効くわけないし、そんなことしたのだってみんなも知らないんだからそれはどーでもいい!でもあの!手紙だけは!ヤバイ!!  さて、手紙は上の方に乗せたか、下の方に潜り込ませたか、それが問題である。  あのままタイムカプセルの存在なんてみんな忘れててくれれば良かったのに――なんてことを今更言っても仕方ない。とにかく、手紙を誰よりも早く見つけて処分する、今考えるべきはそれだけだ。 「えっと、確か当時使ってなかった花壇のあたり、だったよな?」  勇雄が持参したスコップ二本を片手に告げた。 「で、女王様。スコップ二本でいいって言われた時に薄々そんな気はしてたけど……やっぱり力仕事は俺と空でやれってなわけね?」 「当たり前でしょー?女子のか細い腕にやらせる気ー?働きなさいよ男子ー!」 「頑張って、勇雄君」 「デスヨネー」  ちなみに、女王様、というのは清香のあだ名である。気が強すぎて空からすれば恋愛対象外だったが、美人で運動も勉強もできる清香はみんからの憧れの的だった。加えて、男相手でも全く物怖じしない負けん気の強さである。それでついたあだ名が、女王様。意外にも本人もそれなりに気に入っていた様子である。なんでもリーダーになりたがる、彼女らしいと言えばらしいのだが。 「力仕事、僕もあんま得意じゃないんだけどな……」  ああ気が進まない。僕は大きくため息をついた。 「作家の腕だって細いんだぞー……?少なくとも勇雄より僕の方が遥かに華奢だろ。頑張ってくれよ、勇雄」 「それは清香様に言ってくれ、無様な臣下は女王様には逆らえんのだ、小学生の時から」 「あーうん、それは知ってる……」  そう言いつつも、見れば見るほど勇雄の腕は太く、実に逞しい。僕の太股は軽く越える太さがありそうだ。ボディービルダーとはあくまで筋肉を“魅せる”仕事であるのは知っているが、それでもジムで実際に鍛えなければここまでの筋肉は生まれまい。力持ち、という意味ではさすがに期待してもいいだろう。  そんな自分達をくすくすと笑いながら見ているのが清香と希美である。昔から二人は本当に仲良しだった。まるで正反対の性格なので、一見すると全く気が合わなそうだというのに。 「ここの学校も寂れたもんだし、セキュリティとか何それ美味しいのーってかんじなのが実に有り難いわ。夜に駐在してる用務員とか守衛とか、相変わらずいないみたいだしね」  さて行くわよ!とややしょんぼり気味の男子をほっぽって、力強く清香は歩き始めた。 「不法侵入ってことになるんだろーし、さっさと掘り返して持って帰りましょ。せっかくおっきな荷物乗せられるワゴンで勇雄には来てもらってんだしね!」  それを聞いて、空は心の中で呟いた。  不法侵入になるのがわかってるなら、そこで思い止まってほしかった、と。
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