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結局、体力のない空はあっさりと力尽きることになり、専ら地面を掘るのは勇雄の役目になっていた。だらしないわね男の癖に!と清香には詰られたが、そう言うのなら自分でやれと言いたいところである。彼女はスカートにハイヒールという、お洒落だがまったく穴堀りする気のない服装で来ていた。タイムカプセルを開けるといいながら、最初から自分と勇雄に押し付ける気であったのがみえみえである。
「結構深い穴掘った記憶あるから、すぐには出てないかもね」
疲れきって座り込んでいる空の横に、ちょこんとしゃがんでくる希美。
「空も懐かしいんじゃない?何を入れたか覚えてる?」
「え?えー……いやその、あんまりは……」
思わずしどろもどろになってしまう空。がっつり覚えてます、なんて言えるはずがない。今はもう、それを一刻も早く破り捨てたくてたまらないのだから。
「私もあんまり覚えてない。……でも、十五年前のみんなのことは、すっごくよく覚えてるよ。みんな変わったよね。勇雄はめっちゃカッコよくなってるし、清香はめっちゃ美人になってるし。……なんといっても、今や空は小説家、だもんね?」
うふふ、と悪戯っ子のような笑みを浮かべる希美。大人しいけれど、茶目っ気もあって気遣い上手な希美のことが、心底好きでたまらなかったことを思い出していた。告白しよう、しようと思ってできないままお別れしてしまったことも。
昔の彼女も可愛かったが――今はさらに、色気がある。顔立ちは相変わらずの童顔だが、なんといっても希美は素晴らしい巨乳に育っていた。ついつい目をやってしまい、慌てて逸らす空である。
「あの大空シンが、まさか空の事だったなんて思わなかった!“アロンツォの殺人”シリーズ、ものすごくヒットしてるじゃない。ミステリあんま読まない私でさえ知ってるもん。すっごい印税も入ってるんじゃない?」
「あ、ありがとう。そんな大したものじゃないよ、少し運が良かっただけだから」
「またまた謙遜しちゃって。こんなことなら、小学校の時に空の書いた小説、もっとちゃんと読ませて貰うんだったなぁ……」
憧れの女の子に、誉められるのは悪い気がしない。思わず照れて顔を赤くした時、あ!と勇雄の声が聞こえた。
「やっとだ!出てきたぞ、これじゃないかタイムカプセル!」
「!!」
空は慌ててそちらに駆け寄る。想像以上に深く掘られた穴の底、銀色の丸い物体がちらりと顔を覗かせていた。まるで卵のような形のそれは、記憶にあるカプセルと十二分に一致する。
「頑張ったじゃない勇雄!誉めてあげるわ!」
清香が上機嫌で歓声を上げた。
「早く早く!残りも掘り出して!ずっと楽しみにしてたんだから!!」
「人使いが荒いんだから、清香は……たくっ」
相変わらず手伝う気のない清香に呆れつつ、勇雄は忠実にカプセルを掘り出していく。そして、大きな卵をよいしょ、と持ち上げて穴の外に放り出すと、自らも這い上がってきたのだった。
さあいよいよだ、と空は固唾を飲む。
黒歴史を回収すべし。痛い青春抹殺すべし。とにかくそれだけを念じている僕の目の前で、泥だらけの手を払いつつ勇雄がカプセルに手をかけた。そして陽気な声で告げる。
「いざ、御開帳~!」
そして。
誰も予想しなかった現実が、目の前に現れることになる。
「ひっ……!?」
カプセルから溢れだしたのは――毒毒しいまでの、真っ赤な色であったのだから。
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