<1・タイムカプセル>

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 ***  結局、体力のない空はあっさりと力尽きることになり、専ら地面を掘るのは勇雄の役目になっていた。だらしないわね男の癖に!と清香には詰られたが、そう言うのなら自分でやれと言いたいところである。彼女はスカートにハイヒールという、お洒落だがまったく穴堀りする気のない服装で来ていた。タイムカプセルを開けるといいながら、最初から自分と勇雄に押し付ける気であったのがみえみえである。 「結構深い穴掘った記憶あるから、すぐには出てないかもね」  疲れきって座り込んでいる空の横に、ちょこんとしゃがんでくる希美。 「空も懐かしいんじゃない?何を入れたか覚えてる?」 「え?えー……いやその、あんまりは……」  思わずしどろもどろになってしまう空。がっつり覚えてます、なんて言えるはずがない。今はもう、それを一刻も早く破り捨てたくてたまらないのだから。 「私もあんまり覚えてない。……でも、十五年前のみんなのことは、すっごくよく覚えてるよ。みんな変わったよね。勇雄はめっちゃカッコよくなってるし、清香はめっちゃ美人になってるし。……なんといっても、今や空は小説家、だもんね?」  うふふ、と悪戯っ子のような笑みを浮かべる希美。大人しいけれど、茶目っ気もあって気遣い上手な希美のことが、心底好きでたまらなかったことを思い出していた。告白しよう、しようと思ってできないままお別れしてしまったことも。  昔の彼女も可愛かったが――今はさらに、色気がある。顔立ちは相変わらずの童顔だが、なんといっても希美は素晴らしい巨乳に育っていた。ついつい目をやってしまい、慌てて逸らす空である。 「あの大空シンが、まさか空の事だったなんて思わなかった!“アロンツォの殺人”シリーズ、ものすごくヒットしてるじゃない。ミステリあんま読まない私でさえ知ってるもん。すっごい印税も入ってるんじゃない?」 「あ、ありがとう。そんな大したものじゃないよ、少し運が良かっただけだから」 「またまた謙遜しちゃって。こんなことなら、小学校の時に空の書いた小説、もっとちゃんと読ませて貰うんだったなぁ……」  憧れの女の子に、誉められるのは悪い気がしない。思わず照れて顔を赤くした時、あ!と勇雄の声が聞こえた。 「やっとだ!出てきたぞ、これじゃないかタイムカプセル!」 「!!」  空は慌ててそちらに駆け寄る。想像以上に深く掘られた穴の底、銀色の丸い物体がちらりと顔を覗かせていた。まるで卵のような形のそれは、記憶にあるカプセルと十二分に一致する。 「頑張ったじゃない勇雄!誉めてあげるわ!」  清香が上機嫌で歓声を上げた。 「早く早く!残りも掘り出して!ずっと楽しみにしてたんだから!!」 「人使いが荒いんだから、清香は……たくっ」  相変わらず手伝う気のない清香に呆れつつ、勇雄は忠実にカプセルを掘り出していく。そして、大きな卵をよいしょ、と持ち上げて穴の外に放り出すと、自らも這い上がってきたのだった。  さあいよいよだ、と空は固唾を飲む。  黒歴史を回収すべし。痛い青春抹殺すべし。とにかくそれだけを念じている僕の目の前で、泥だらけの手を払いつつ勇雄がカプセルに手をかけた。そして陽気な声で告げる。 「いざ、御開帳~!」  そして。  誰も予想しなかった現実が、目の前に現れることになる。 「ひっ……!?」  カプセルから溢れだしたのは――毒毒しいまでの、真っ赤な色であったのだから。
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