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簡単だ。ギラギラ光る“眼”が、段々とこちらに近づいてくるのが見えたからである。しかもそれは、自分達を射殺すほどに強い光だ。当たり前だろう。なんといってもその“人工の灯”は、あまりにも見慣れたものだったのだから。
つまり――自動車の、ヘッドライトである。
「は……!?」
全員、反応が遅れた。だってそうだろう。
自分達を乗せてきた勇雄のワゴン車が――真っ直ぐこちらに突っ込んでくるなんて、一体どうして想像できようか!
「に、逃げろ!」
「嘘でしょっ!?」
「希美っ!」
空は唖然として佇む希美の手を強引に引っ張った。間一髪、さきほどまで自分達のいた場所に勢いよく突っ込むワゴン車。校舎の壁に激突し、硝子が砕けるような凄まじい音が響き渡った。そして、空ははっきりと見る。――暴走したワゴン車の運転席には、誰も乗っていないというのを。
それなのに車はエンジンをふかし、半壊した状態でさらに動き出さんとタイヤを回していることを。
「み、みんな!これまずいって……!」
何がどうしてこうなったのかはさっぱりわからない。確かなのは、ワゴン車が明らかに制御を失い、明確に自分達を狙って突っ込んできたという事実だけである。
やがて、ガコン、とギアが入れ替わるような音がした。タイヤの動きが、反転する。バックしてまた突っ込んでくる気だ、と空は直感した。
「とにかく、逃げないと……どっかへ!」
「何処かって、何処よ!?」
「何処でもいいだろ、とにかくワゴンが来ないところだよ!!」
外にいては、いずれ追いつかれて撥ねられる。どこか屋内に逃げる場所は、と思った時――空の視界に、中途半端に開いた昇降口の扉が見えた。
鍵が開いているなんておかしい。まるで誘っているかのよう――そうは思ったものの、現実問題他に逃げる場所などあろうはずもない。
「あ、あそこ!校舎の中、入れる!」
声を上げれば、清香が真っ先に走り出した。その後ろに勇雄が続き、空は真っ青で固まっている希美の手をどうにか引っ張ってつれていくことにする。
車が派手にアクセルを吹かす音がした。時間はない。
「急げ!」
それは新たな地獄の始まり。そして、真実への入口。
既に定められた運命の中へ、四人は誘われるまま足を踏み入れる他なかったのである。
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