<1・タイムカプセル>

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<1・タイムカプセル>

 ああ、ついにこの時が来てしまった。露木空(つゆきそら)は内心、全力で頭を抱えて逃げ出したい気持ちでいっぱいである。  目の前には、懐かしの小学校。  隣には、小学校時代に一番一緒に遊んでいた友人達が三人。  ボディービルダーとして活躍しているという小此木勇雄(おこのぎいさお)。  学校で事務員をしているという、長身美人な真壁清香(まかべさやか)。  そして眼鏡をかけた、童顔でいかにもおしとやかな保育士の佐藤希美(さとうのぞみ)。  二十七歳になった自分達は、夜の学校に今からこっそり忍び込もうといているのである。いくら卒業生とはいえ、許可も取らずに侵入するなんて絶対いいわけがないのだが。清香の鶴の一声で、全てはあっさりと決まり、空もまた巻き込まれる形でここまで連れて来られる羽目になったのである。  動機は簡単なこと。――卒業式の後、こっそり埋めたタイムカプセルが気になってしょうがないから!である。  空からすれば、来るべき時が来てしまった、というのが本心だった。ああ、久しぶりに希美から連絡が来てついついはしゃいで余計な話をしてしまったのがまずかったかもしれない。小説家になって、そこそこ名前が売れるようになったからといって、それを初恋の女の子についつい語ってしまうからこんなことになるのだ。小学校の時は、嫌でも自分が書いている物語なんて彼女に見せようとはしなかったというのに。  久しぶりに会いたいね、と彼女が言い出して――ああ、そこから、かつてのメンバーと一緒にまた話したいなんてことになったのだっただろうか。そして、そのせいで思い出させてしまうことになったのである、十五年前に埋めたタイムカプセルの話を。  自分達は男女四人のグループだったが、いつも仕切っていたのは清香で、彼女が決めたことには周りも殆ど逆らわなかった。彼女は美人だし、決断力がある。少々強引なこともあるが、彼女がそうだと決めて行動したことは大抵正しい。今回も――ああ、結局そのノリで、希美が清香に全てを話してしまい、タイムカプセルのことが持ち上がってしまったという流れであった。
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