<5・ウラギリ>

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<5・ウラギリ>

 違和感が、少しずつ強くなってくる。勇雄は昔からこう、だっただろうか。空の記憶の中で彼はむしろ――清香に惚れているのではないか、と思うくらいべったりと彼女にくっついて回っていた印象だったというのに。  むしろ、彼女の信者、に近いものがあるとさえ感じていたほどだ。実際、目に見えて勇雄が清香に逆らったことなど一度も記憶にない。彼女が怒っているのを諌めたり、仲裁したりはしょっちゅうあったような気がするが。  そして清香もだ。確かに勝ち気がすぎてやや強引な印象はあったが――みんな頼りにしていたし、女王様といつのもむしろリーダーとして信頼してそう呼んでいたとばかり思っていたのに。 「人間ならさ、誰だって間違えることはある。誰だってそうだ。一見完璧に見える人間もケアレスミスはするし、うっかりいつもはしない失敗をすることってあるだろ。それこそ、長年なにかを勘違いしてるとか、そういうことも当然あるわけだ。極端な話、エロ本とかエロ話を一切聞いたことがなかったりしたらさ、子供の頃に“赤ちゃんはコウノトリが連れてくるんだよ”を大きくなっても普通に信じてたっておかしくないだろ?誰も教えてくれないならさ」 「まあ、そういうこともあるかもね。人間なんだし」 「そうだろ?……でもなんていうか、清香はさ。……自分だけはそういう失敗はしないし、そういう間違いなんて許されないとか……そういうとこ、あったんだよな。極端なまでにプライド高すぎるというか、なんというか」  まあ、全くわからない話ではない。そういえば、昔から清香の口癖は決まっていた気がする――そう、“私が正しいんだから言う通りにしていればいいのよ”だ。  それは、彼女の絶対的な自信の現れだとばかり思っていた。実際、彼女の決断力と行動力がクラスを引っ張っていたと言っても過言ではなかったのだから。 「自分に逆らう人間は全部悪だし、自分を否定する人間や邪魔する人間はとことん排除しないと気がすまない。でもって最終的に自分の方が間違ってるかもしれないなんてことになっても……絶対に、謝らない。なあ空、覚えてないかな。修学旅行でさ、清香がカンカンに怒ってたこと。あいつこっそり親のアクセサリー持ち込んでてさ、その高いネックレスがなくなって……それで盗まれたって大騒ぎしたんだよな」  そんなこと、あっただろうか。あまりよく覚えていない。というか、と空は首を傾げる。というか清香が強気であったのは記憶にあっても、大きなトラブルを起こしたようなことに殆ど覚えがないような気がしている。  昔のことだから、自分は忘れてしまったのだろうか。はっきり覚えてるのはいつも堂々と背筋を伸ばして意見を言う姿や、困っている時に力強く背中を叩いてくれた頼もしい姿ばかりである。
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