<2・ワゴン>

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<2・ワゴン>

 最初は、それが何を意味するのか全く理解できなかった。むしろ、誰かが自分達を驚かせようと、タチの悪い悪戯を仕掛けたとしか思えなかったのである。  それほどまでに、銀色のタマゴの中身は――赤かった。  辛うじて分かるのは、集合写真らしきものが入っていたということ。何枚かの紙切れと、それからボールのようなものや文房具のようなもの。同時にノートのようなものが入っていたのも分からなくはない。  そう、“分からなくはない”のレベルなのだ。  その殆どがズタズタ切り刻まれた上――上から真っ赤な、生臭い液体のようなものをブチ撒けられて、カプセルいっぱいに押し込められていたのだから。 ――な、何だよ、これ……!?  空は息を呑み、ただ黙ってその光景を見つめていた。勇雄が慌ててカプセルを取り落とした表紙に、“中身の一部は風に舞って散らばっていく。赤いもの、の大半は乾いていた。ただし、元に詰まっていたものを損壊し、判別不能にするには十分な役割を果たしていたと言える。散らばったものも、大半が“ズタズタの切れ端”でしかなく、ほぼほぼ何を意味していたのかさっぱりわからないものばかりとなっていたのだから。 「!」  何かが、誘われるように空の足元に落ちた。奇跡的に、封筒の表紙に書かれている文字が判別できる状態になっているそれを、空は慌てて拾いあげてポケットに押し込むことに成功する。幸い、みんなはこちらを見ておらず気づかなかった。“希美へ”と書かれた、彼女への愛を綴った拙いラブレター。それを回収しようという理性は、まだ辛うじて空には残っていたのである。  極めて悪趣味な悪戯だとは思うが、それはそれ。そもそもは黒歴史の処分のために、ここまで足を運んだわけなのだから。 「ひ、酷い……」  希美が、呆然とした声を出す。それで、漸く時間が動き出した気がした。みんな、あまりにも予想外の事態すぎて、完全に言葉を失っていたのである。  痛い青春も詰まっていたが、そもそも仲良し四人組で大事に埋めたタイムカプセルである。よもやこんなことになっているなんて、一体誰が想像していたことだろうか。 「ちょっと、これ!どういうことよ、ねえ!?誰がこんなことしたわけ!?」  勝気な清香が、真っ先に怒りを露にした。キッ、と鋭い視線がこちらを振り返る。昔からの自分達の暗黙の了解。女王様は絶対に怒らせるな、怒らせたら祟られるじゃ済まないぞ――を思いだし、震え上がる空。
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