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一心同体
学校から帰ったら、真っ先に二階の自分の部屋に駆け込む。これが私の習慣。専業主婦のお母さんよりも先にただいまを言いたい相手がいるから。
「チュンちゃんただいまー。」
「おかえり、おかえり!」
チュンちゃんは、私が飼っている鳥の名前。私が外出している間は、いつも鳥かごに入れている。チュンちゃんは、私の一番のお友達。そして一心同体なの。不思議と私が体調を崩すと、チュンちゃんもなんだかしんどそうに見える。
「マホ、帰ったのー?帰ったらちゃんと言いなさいっていつも言ってるでしょ。」
お母さんの声だ。下に降りてお母さんにちゃんとただいまを言わなくちゃ。
「お母さん、ただいま。」
「またチュンちゃんに先に会いに行ってたのね。」
「うん。」
喉が渇いていた。冷蔵庫から麦茶を取り出し、コップに注ぐ。それを一気に飲み干して、また二階に上がろうとした。すると、お母さんが話しかけてきた。
「マホ。お母さん、マホにお話があるの。」
「何よ、改まっちゃって。」
「もうあなたも今年で十七歳でしょ?」
「そうだけど何?」
「いい加減、ぬいぐるみごっこはやめたらどうかしら?」
「ほっといてよ!」
私は二階に駆け上がった。そしてチュンちゃんに話しかける。
「チュンちゃん、お母さんに酷いこと言われたの。」
「マホ、かわいそう。マホには、チュンちゃんがついてるよ。」
「チュンちゃん、ありがとう。」
夜、お父さんが帰ってきてみんなで揃って晩ご飯の時間。お母さんが、お父さんに言った。
「あなた、マホのぬいぐるみごっこそろそろやめさせないと…」
「あぁ、そうだな。」
「マホ、もう小さい子供じゃないんだから、ぬいぐるみごっこはやめなさい。」
「ぬいぐるみごっこじゃないもん、チュンちゃんは生きてるよ!」
私は、ご飯をほとんど残して二階の自分の部屋へ向かった。そう、チュンちゃんはぬいぐるみだ。昔飼っていた鳥にそっくりのぬいぐるみ。私はチュンちゃんに話しかける時、一人で二役しているのだ。でもこれがぬいぐるみごっこだなんて思わない。
チュンちゃんは、私の一番のお友達。一心同体のお友達。
「チュンちゃん、これからもよろしくね。」
「うん、チュンちゃんこそよろしくね。」
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