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穴がふさがり、ふたりが会うことはなくなりました。
時折、穴のあった場所へと向かい、土をさぐってみるけれど、庭師によって整えられたそこは、もうなんの跡ものこっていないのです。
はじめのころは残念そうにながめていた王子も、数年がたつと穴の場所へ行くこともなくなってしまいました。
あれは夢だったのかもしれないとおもいます。
ずっと見張りをつけられて、監視されていた自分が作りだした幻の存在。
彼女の姿が絵本でみた妖精に似ていたのも、そのせいだったのでしょう。
王子はふたたび名前を封印し、ただの「王子」にもどりました。
けれど王子は、どんなふうに見られようとも自分を卑下するのはやめることにしました。たとえ幻だったとしても、ティーはだいじな友達です。
王子はちっともわるくない。わるいのはずっとむかしの王さまと魔女だわ。
ティーがいった言葉をエセルグウェンはおぼえています。
王子はわるくないと言ってくれたのは、ティーがはじめてだったのです。忘れるわけがありません。
怖がられないように、呪いになんて負けないように、正しいこころをしめして、自分を信じてもらえるように。
王子は前を向いて生きるようになりました。
そうすると、周囲の大人たちも王子のことをあまりわるくいわないようになりました。
おとぎ話のような、生きているかもわからない魔女の呪いよりも、利発そうな王子がよいこころをもってくれるほうが大切だからです。
王さまと王妃さまは、王子に国でいちばん頭のいい先生をつけ、正しいこころをもつよう育てることにしました。
こうして王子は呪いに打ち勝つため、いつかわるい魔女が現れたとしても、かつての王さまのように魔女を閉じこめるため――、いいえ、今度は魔女を滅ぼしてしまえるよう、心も身体も強くなるために励んだのです。
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