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6 魔女と王子
広場には常に誰かが見張りとして立っています。
悪名高い、いばらの魔女がいるからです。
手足に縄をかけ、大きな木の幹に縛りつけます。まわりには柵をこしらえ、そこにも縄を張り、おいそれと近づけないようにしてありました。
それでも人々は、怖いものみたさにシスティーナの姿を見にきては、ひどい言葉を投げつけるのです。
時々、土くれや石も飛んできますので、彼女の足もとは埋もれてしまっていました。
顔も髪も服も、土ですっかりよごれていましたが、美しいみどり色の瞳だけは、そのままです。システィーナはその瞳を彷徨わせ、目当ての人をさがしますが、姿を見せません。
お忙しいのかしら。
薬の作り方を、さいごにきちんと伝えておきたかったのに……。
もっとも、魔女たる自分のいうことなど、聞いてはくれないかもしれません。
会えないのであれば、書きつけだけでも残しておきたいともおもうのですが、手をしばられているのでそれもかないませんでした。
薬が尽きてしまえば、病はまた広がってしまうかもしれません。
そうすると、呪いがとけていないということで、ふたたび王子が国を滅ぼすとおもわれてしまうかもしれないのです。
そんなことになっては駄目です。
千年の呪いは自分が引き受けて、ここで消えるのです。
王子はこれより先、幸せになるべきなのです。
王子はシスティーナの友達でした。
だいじなだいじな友達でした。
今ならば、シェンナの気持ちがわかります。
魔女はだいじな王さまを助けるために、みずからを差し出したのです。
エセルを呪いから解放するために、わるい魔女として消える。
すこしも怖いことではありません。どうせさいごの魔女なのです。
エセルのために、千年の魔女としての役目を果たす。
それが、今のシスティーナの願いでした。
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