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それは、エルフェンバインに伝わる物語。
はたしてその千年が、今日なのか昨日なのか明日なのか、本当のところは誰も知りません。
けれど、わるい魔女のことは知っています。
大昔、おじいさんの、そのまたおじいさんのおじいさんのおじいさんが、ずっとずっと小さなころにひどい飢饉や病気がはやったのは、わるい魔女と魔物のせいだと知っています。
日照りがつづいたり、大雪で作物が育たなかったりするのも、わるい魔女のせいだといわれています。
北の森は、魔女の森。
いばらで覆われて入口すらわからなくなった森からは、ときおり不気味な声がひびいてきますが、それは魔物の声だといわれているのです。
わるい魔女はまだ生きていて、魔物と一緒に森のなかで暮らしている。
そして、千年たって国が滅びるのを待っているのです。
わるさをした子どもを叱るとき、おかあさんはこういいます。
あんまりいうことをきかないのなら、いばらの森においてきてしまうよ――と。
すると、たちまち子どもは泣きわめき、おかあさんにあやまるのです。
いばらの森は人々にとって、悪の根源でした。
うまくいかないこと、いやな気持ちになったとき、すべて「いばらの森のせい」でした。
そうすることで、人々は自分の気持ちを落ちつかせ、前向きにかんがえられるのです。
そうして、つぎにうまくできたとき、人々はこう感謝するのでした。
わるい魔女に打ち勝つことができた。ああ、よい魔女のおかげだ。
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