6 魔女と王子

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 なかば朦朧(もうろう)としていたシスティーナは、顔を打った痛みで我にかえり、そうして誰かが近づいてくるのに気づきました。  これまでは遠巻きに見るだけで、誰もこちらに来ようとはしなかったのに、いったいどうしたことでしょう。  のろのろと顔をあげると、銀色にかがやく人がいました。  腰に剣をたずさえた背の高い男が立っていました。晴れた日の空を映したような瞳は、おどろきに見開いています。  ああ、エセル。エセルグウェン。  わたしを殺す王子さま。  ずっとずっと会いたかった人がそこにいました。  システィーナは知らず笑顔になりました。すると王子は、顔をくしゃりと苦しげに歪めます。噛みしめたくちびるが動いて、システィーナの名前を形づくりました。  とうとう知ってしまったのだと、システィーナは悟りました。  ティーが魔女であることを、王子が知ったことを悟りました。  そして同時に、王子が自分を覚えていてくれたことを知り、うれしくなりました。  もうずっと前のことなのに、システィーナが忘れていないように、エセルグウェンも忘れていなかったのです。  それだけでもうじゅうぶんでした。  じゅうぶんに幸せでした。  だからシスティーナは、広場中に聞こえるよう、大きく声をはりあげたのです。 「よくぞ来た、千年の呪いを背負いし王子よ。さあ、呪いを解きたくば、我を殺してみるがよい」 「……わたしにそなたを殺せと申すか」 「なにを迷う王子よ。このまま滅びを望むのならばそれもよいであろうが、それではそなたは死ぬまで呪われたままであろうぞ」  立ち尽くすエセルグウェンに、人々は声をあげます。 「王子、呪いを解く王子。さあ、早く魔女を殺してくださいませ」 「その剣で一突きにして、魔女など串刺しておしまいなさい。王子ならば可能です」 「魔女の生き血は不老不死の妙薬というではないか。血をぜんぶしぼりとってみてはどうだろう」 「それはすばらしい。ならば、その肉はどうであろう」 「あの金色の髪は、整えればたいそう高く売れそうだ」 「宝石のような瞳も、そうであろうよ」 「わたしは細い指がほしい」 「すらりとした足もよい」 「ああ、王子。早く魔女を殺して我らに恵みをお与えください」 「魔女の生き血は一番に捧げましょう」
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