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なかば朦朧としていたシスティーナは、顔を打った痛みで我にかえり、そうして誰かが近づいてくるのに気づきました。
これまでは遠巻きに見るだけで、誰もこちらに来ようとはしなかったのに、いったいどうしたことでしょう。
のろのろと顔をあげると、銀色にかがやく人がいました。
腰に剣をたずさえた背の高い男が立っていました。晴れた日の空を映したような瞳は、おどろきに見開いています。
ああ、エセル。エセルグウェン。
わたしを殺す王子さま。
ずっとずっと会いたかった人がそこにいました。
システィーナは知らず笑顔になりました。すると王子は、顔をくしゃりと苦しげに歪めます。噛みしめたくちびるが動いて、システィーナの名前を形づくりました。
とうとう知ってしまったのだと、システィーナは悟りました。
ティーが魔女であることを、王子が知ったことを悟りました。
そして同時に、王子が自分を覚えていてくれたことを知り、うれしくなりました。
もうずっと前のことなのに、システィーナが忘れていないように、エセルグウェンも忘れていなかったのです。
それだけでもうじゅうぶんでした。
じゅうぶんに幸せでした。
だからシスティーナは、広場中に聞こえるよう、大きく声をはりあげたのです。
「よくぞ来た、千年の呪いを背負いし王子よ。さあ、呪いを解きたくば、我を殺してみるがよい」
「……わたしにそなたを殺せと申すか」
「なにを迷う王子よ。このまま滅びを望むのならばそれもよいであろうが、それではそなたは死ぬまで呪われたままであろうぞ」
立ち尽くすエセルグウェンに、人々は声をあげます。
「王子、呪いを解く王子。さあ、早く魔女を殺してくださいませ」
「その剣で一突きにして、魔女など串刺しておしまいなさい。王子ならば可能です」
「魔女の生き血は不老不死の妙薬というではないか。血をぜんぶしぼりとってみてはどうだろう」
「それはすばらしい。ならば、その肉はどうであろう」
「あの金色の髪は、整えればたいそう高く売れそうだ」
「宝石のような瞳も、そうであろうよ」
「わたしは細い指がほしい」
「すらりとした足もよい」
「ああ、王子。早く魔女を殺して我らに恵みをお与えください」
「魔女の生き血は一番に捧げましょう」
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