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ごう、と強く風が吹きました。
枝はしなり、大きく揺れます。
魔女と王子を囲んだ柵は、メキメキと音を立てて倒れ、草も花も地面からはなれて浮き上がります。風はおおきな渦となって土と砂が舞きあげながら、空へと立ち上がりました。
広場にいる人々は、目をあけていることもできなくて、寄りあつまったり這いつくばったりしながら、風がおさまるのを待つしかありません。
王子と魔女は、大木にしがみつきながら風がおさまるのを待っていましたところ、渦の下にぽっかりと穴が開いていることに気がつきました。
風が轟き、空はいつのまにか雲におおわれています。
大木の声がひびきました。
その声は、広場中みんなの耳にとどくほどに大きなものでした。
呪われし王子よ。
その大きな洞は、かつて魔女を封じたもの。
魔女は囚われ、その力は永遠に失われるであろう。
広場の誰かがいいました。
「あれは誰の声だろう。神様であろうか」
「魔女を封じるため、神が王子に味方したのだ」
「魔女を落とせ」
「魔女を落とせ」
地面には大きく開いた穴があり、どこへ続いているかも見えないほどに深いものでした。
システィーナはごくりと息をのみます。
魔女を落とせと周囲が叫ぶなか、エセルグウェンの手が背中にあたります。
「いこう、ティー。ぼくも一緒にいくよ」
「どこまでいくかも、どこへいくかもわからないのに?」
「穴をみつけたなら、入ってみなくちゃ」
震える声で問うシスティーナに、エセルグウェンは笑ってそう答えました。
それはかつて、うんと小さなころに出会った王子がいった言葉です。
だから彼女も、おなじ言葉をかえします。
「そうね。なら仕方ないわ」
エセルグウェンは微笑んで、そうして広場にいる人々に告げました。
「魔女がかけた呪いと、我が身にかけられた千年の呪い。そのふたつをここに封じよう。これより先、いばらの魔女は消え、そして王子も消える。千年の呪いはもうおしまいだ」
そうして人々が見つめるなか、王子と魔女は、その身を穴の中へと投げ出しました。
するとふたたび渦が舞い、土や砂や石をあつめて、みるみるうちに穴は埋まってしまったのです。
あとはもう、壊れてしまった柵と今にも倒れそうな大木、草や花がちぎれてなくなって、まるはだかになってしまった地面があるだけです。
空はいつのまにか晴れ、なにごともなかったように太陽が降り注ぎます。
誰もなにもいいません。
兵士たちはしばらくぼうっとしておりましたが、やがてお城へともどっていき、そうして王さまと王妃さまに報告しました。
「それでいったい王子はどうなったのだ」
「わかりません。ですが王子は魔女とともに身を投げて、呪いを封じこめました」
「ああ、王子はとうとう正しいこころで国を救ったのですね」
王妃さまがいいました。
王さまもうなずきました。
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