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王子は生まれ落ちたその時から、呪いの王子とよばれていました。
はるかむかし、魔女がかけた千年の呪い。
国を滅ぼすとされる千年後の王子が、自分だというのです。
小さなころから、王子のまわりにはたくさんの人がいました。
たくさんの人に囲まれていました。
たいせつに育てられたというわけではありません。
王子がわるいこころを持たないように、わるいおこないをしないように。
彼はずっとずっと見張られているのです。
呪いの王子。
滅びの王子。
エセルグウェンは、本当の名前より、そちらの呼び名が有名でしたし、お城に住む者たちには「王子」とよばれ、王さまや王妃さまにも「王子」とよばれます。
誰も彼のことを、エセルグウェンとはよびません。
なぜなら、その名前こそが呪われた名前だからです。
よい魔女が残した書きつけに、王子の名前は魔女に知られてはならないと記されています。魔女は、名前をつかって呪いをかけるのです。
エセルグウェンは、その名前をつけられた時から、名前をよばれることはありません。
そんな名前ならば、最初からつけなければよかったのだ。
名をよばれない王子はそうおもいます。
いったい、なんの意味があるというのでしょう。
王子とよばれるたび、口にされない別の言葉がきこえます。
呪いの王子、滅びの王子。
つけられた名前を奪われ、たくさんの人に見張られ、なにもしていなくても、なにをしようとおもっていなくとも、国を滅ぼす者と見られる毎日です。
ああ、どうしてあなたは王子なのでしょう。
わたくしの子が王子だなんて。
ああ、どうしておまえは王子なのだろう。
わたしの子がこの国を滅ぼすだなんて。
生まれたその瞬間から、彼は呪われていました。
いるだけで、彼は呪われた存在でした。
王子は魔女を憎みます。
こんな呪いをふりまいた、いばらの森のわるい魔女を憎みました。
けれど、同時におもうのです。
自分の存在を否定する国など、滅んでしまえばいい、と。
もしくはいっそ、自分が死んでしまえば、呪いから解放されるのだろうか。
ああ、いっそ。
誰かぼくを殺してくれないだろうか。
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