1 はじまり

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 王子は生まれ落ちたその時から、呪いの王子とよばれていました。  はるかむかし、魔女がかけた千年の呪い。  国を滅ぼすとされる千年後の王子が、自分だというのです。  小さなころから、王子のまわりにはたくさんの人がいました。  たくさんの人に囲まれていました。  たいせつに育てられたというわけではありません。  王子がわるいこころを持たないように、わるいおこないをしないように。  彼はずっとずっと見張られているのです。  呪いの王子。  滅びの王子。  エセルグウェンは、本当の名前より、そちらの呼び名が有名でしたし、お城に住む者たちには「王子」とよばれ、王さまや王妃さまにも「王子」とよばれます。  誰も彼のことを、エセルグウェンとはよびません。  なぜなら、その名前こそが呪われた名前だからです。  よい魔女が残した書きつけに、王子の名前は魔女に知られてはならないと(しる)されています。魔女は、名前をつかって呪いをかけるのです。  エセルグウェンは、その名前をつけられた時から、名前をよばれることはありません。  そんな名前ならば、最初からつけなければよかったのだ。  名をよばれない王子はそうおもいます。  いったい、なんの意味があるというのでしょう。  王子とよばれるたび、口にされない別の言葉がきこえます。  呪いの王子、滅びの王子。  つけられた名前を奪われ、たくさんの人に見張られ、なにもしていなくても、なにをしようとおもっていなくとも、国を滅ぼす者と見られる毎日です。  ああ、どうしてあなたは王子なのでしょう。  わたくしの子が王子だなんて。  ああ、どうしておまえは王子なのだろう。  わたしの子がこの国を滅ぼすだなんて。  生まれたその瞬間から、彼は呪われていました。  いるだけで、彼は呪われた存在でした。  王子は魔女を憎みます。  こんな呪いをふりまいた、いばらの森のわるい魔女を憎みました。  けれど、同時におもうのです。  自分の存在を否定する国など、滅んでしまえばいい、と。  もしくはいっそ、自分が死んでしまえば、呪いから解放されるのだろうか。  ああ、いっそ。  誰かぼくを殺してくれないだろうか。
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