2 出会いの森

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 草をかきわけて、ぽっかりとひろがった穴に身体を滑りこませます。  もうだいぶきつくなって、奥へ進んでいくのもむずかしくなってきましたが、彼はそれでも穴の先へ向かうのをやめることができませんでした。  最初の頃は、永遠につづいているかのようにおもえた道筋も、いまではほんのすこしの時間におもえます。  それはたぶん、穴の先にはシスティーナがいることを知っているからなのでしょう。  森に住んでいる少女、システィーナ。  あの少女と出会ってから、エセルグウェンは毎日がたのしくなりました。  おいしいものを食べたとき、おもしろい本をよんだとき、ぜんぶシスティーナに教えようとおもいました。  呪いの王子とよばれる自分に初めてできた、友達です。  だいじなだいじな友達です。  システィーナのことをかんがえると、胸がわくわくしました。  まわりに見張られる日々も、システィーナのことをおもうとがまんできるのです。  毎日脱け出すことは困難なので、森で会うのは三日おきです。次の約束をして別れます。  そうすると、もう次が楽しみになります。  たくさんの楽しいことをみつけておいて、そうしてまた森であってはなしをするのです。  システィーナと一緒にいると、森の中でもちっとも怖くありません。  食べられるものを見つけて、そのままで食べたり、一緒に料理をしたりもします。  城でつくられたおいしいお菓子をおみやげにもっていくと、システィーナはとても喜んでくれました。  おいしいお菓子は、一緒に食べるとさらにおいしくおもえました。  王子はエセルグウェンという名前があまり好きではありませんでしたが、少女に名前をよばれるのはとてもうれしいことでした。  この国では誰もよばない名前を、システィーナだけがよんでくれました。  それはとても特別なことでした。  呪われた名前も、呪われた自分も、いばらの魔女のことも、システィーナといるときは忘れられたのです。  呪いのことを忘れられたのは、システィーナもおなじでした。  はるかむかしの魔女シェンナのことも、王さまを殺したたよい魔女のことも、わるい魔女でありつづけることをえらんだ魔女たちのことも、自分がいばらの最後の魔女であることも、ぜんぶどこかに追いやって。システィーナはただのシスティーナである時間を楽しみました。  エセルグウェンに出会ったことで、システィーナは森の外へ出ることが怖くなくなりました。  彼のためになにかをすることは、とてもたのしくうれしいことでした。  そのために、外の町で買い物をするときも、ビクビクすることがなくなりました。  エセルグウェンはシスティーナの友達でした。  だいじなだいじな友達でした。  こんにちは、エセル  こんにちは、ティー  いつしかふたりは、そんなふうにおたがいをよぶようになりました。  おなじぐらいの高さだった背も、いまではエセルグウェンのほうが上になってしまいました。システィーナが届かない場所にある木の実や果実を、エセルグウェンが取って渡してくれるぐらいになりました。  はじめてみたときはよごれていた銀色の髪は、木漏れ日に光ってとてもきれいにかがやきます。さらさらとして、とてもきれいです。自分のうねった髪とはぜんぜんちがいます。  それをいうと、エセルグウェンはかぶりをふってこたえました。 「ティーのふわふわした髪は、やわらかくて、とってもきれいじゃないか」 「ぜったいにエセルの方がきれいだわ。取りかえっこしたいぐらいよ」 「だめだよ。ぼくはいまのティーがいいんだ」 「こういうの、ないものねだりというんだわ」 「ちがいない。人はいつも欲深いんだ」  木の実のケーキを分け合いながら、ふたりはお茶をのみました。  こんなふうにずっといられたら、どんなにすばらしいことだろう。  呪いの王子は胸のなかでつぶやきます。  こんなふうにずっといられたら、どんなにすばらしいことでしょう。  いばらの魔女も胸のなかでつぶやきます。  国を滅ぼすというのならば、みずから滅んで消えてしまいたいとねがった王子と、呪いを終わらせるために、さいごの魔女になることをねがった魔女は。  同じ場所で同じものを食べて同じものを飲み。  そうして同じ景色の中で、同じことを願っていました。  どうかすこしでも、この時間が長くつづきますように。
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