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2 出会いの森
王子はその日、お城のひろい庭を歩きまわっていました。
わざとはぐれて心配させようとおもったわけではありませんが、自分がいなくなった時にまわりがいったいどうおもうのか、知りたかったというのもうそではありません。
かくれてようすを見るだけのつもりでしたが、いつのまにか本当に迷ってしまいました。
そうしているうちに彼は、木々のずっと奥深くにぽっかりと開いた穴を見つけます。それは先がまったく見えないぐらいにまっくらで、手を入れたところからなにも見えなくなってしまうような穴でした。
これはどこに通じているんだろう。
こんなに暗いのだから、きっとずっと遠く長くつづいているにちがいない。
すこしかんがえましたが、穴のなかに足を踏み入れました。
今年で七つになる彼でも、這いつくばって進まなければ通ることができないせまい道です。
おとながとおる道ではないな。森に住む獣かなにかがとおる道にちがいない。
目をこらしながら、そのまま進んでいきます。
身体がいたくなってきたころ、進む先に光が見えはじめました。
やっと出口だ。
光の先に顔をだすと、そこは森の中でした。
高くのびた木々の隙間から、ちらりと青空が見えます。もうずっとながく時間が経っているとおもっていましたが、そうではなかったようです。
ここはどこなんだろう。
王子はかんがえます。
こんなにきれいな森は見たことがありませんでしたので、あの穴はべつの世界につながっている、ふしぎの入口かもしれないともかんがえました。
そんなとき、草をふみしめる音がきこえて振りかえりました。
そこにいたのは、女の子でした。
キラキラひかる金色の髪をして、どんな草木よりもきれいなみどり色の瞳をしています。
それは絵本で見た妖精そのものでした。
それではきっとここは、よい魔女が住んでいたという森なのだろう。
よい魔女はもういないけれど、妖精はまだ住んでいたのだ。
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