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3 秘密の時間
「エセルは魔女をどうおもう?」
システィーナはたずねました。
「それは、呪いの魔女のはなし?」
エセルグウェンは顔をしかめます。
自分に要らぬ呪いをかけた憎い魔女のことをかんがえると、胸のなかがまっくろにそまるような気持ちになるのです。
「魔女はきらい?」
「きらいだよ。魔女が呪いをかけたせいで……」
「――そうだね。呪いのせいで、王子さまはみんなに怖がられてる」
「ティーも王子が怖いとおもう?」
エセルグウェンにきかれて、システィーナは困惑しました。
魔女である自分にとって、みたこともない王子はちかくてとおい存在です。どんな人なのかも知らないのです。
町できくうわさでも、呪いの王子という立場だけで、顔も名前も誰も知りません。
「わからない。会ったことないもの」
けっきょくシスティーナは、そう答えるしかありませんでした。
「だけど、王子はちっともわるくない。わるいのはずっとむかしの王さまと魔女だわ。どうして仲良くしなかったのかしら」
「王さまは、よい魔女と結婚したんだ。仲良くしていないわけじゃないよ」
「……そうだね」
エセルは知らないから。
システィーナはおもいます。
王さまと結婚した魔女は、王さまを殺して自分が王になったのです。シェンナひとりを悪者にして。
だけど、そんなことはいえません。
システィーナが魔女であることを、エセルグウェンには知られたくなかったからです。魔女はきらいだといった彼に、魔女だなんていえるわけがありませんでした。
エセルグウェンもおもいます。
自分がその王子であることを、ティーには知られたくない。
怖がられて、もう会えなくなってしまうのはいやでした。
なんとなく気まずいままで、ふたりは次の約束をして別れました。
エセルグウェンの姿をのみこんだ穴は、なんだかいつもよりも小さく見えて、エセルはいつまでこの穴を通ることができるのだろうと、システィーナは初めてそのことを意識したのでした。
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