ノスタルジア

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   私が身につけている黒い縦縞のスーツ、指先が自由に使える仕様の黒い手袋、どれも私がデザインした物。  全く流行しなかったけど……。  いざ、自分で身につけて、異国の街中を歩いてはいるけど、誰も注目をしてくれない。  せめて、ジロジロと見られるだけでもあれば、少しは救われたけど……。 「お待たせしました」  ウエイターが、テーブルの上にコーヒーとクッキーが数枚のったお皿を置く。軽く会釈をする。  小さいミルクピッチャーを掴み、ミルクを注ぐ。白と黒のコントラストを眺めながら、右手の手袋を外し、透明なガラスのシュガーポットの蓋を取り、シュガートングを使わず、指で角砂糖を一つ撮み、コーヒーの中へと落とす。  角砂糖はコーヒーを吸い込み、あっという間に黒くなり、微かな泡をたて、カップの底へと沈んでいく。  目の前を通り過ぎて行く人達を見つめながら、銀色のスプーンでかき混ぜ、コーヒーを一口飲む。  口の中で苦みのある甘さを感じながら、ゆっくりと胃の中に流し込み、コーヒーカップを静かにテーブルの上に置き、両肘をついて溜息をつく。  ただ、じっと前を見つめてみる。  視線が目指す遥か先にあるぼやけた風景……。  そう言えば……。  私にはかつて恋人がいた。  彼には夢があり、私にも夢があった。  二人はお互いの夢を尊重し合っていた。  時々、喧嘩もしたけど、次の日には仲直りをする。  私達は愛し合っていたから。  二人で何度も旅行をした。  旅行は、二人の共通の趣味だったから。  時には、飲んで、カラオケで騒いで、楽しい時間を謳歌していた。  今になって想う。  私達の会話には、未来が無かった。  お互い違う仕事をしているのに、仕事に関する話も、余りしていなかった。  それらが良くなかったのかもしれない。  何故なら、どちらかが夢を諦め、どちらかの夢を尊重しなければならない時が、来てしまったから。  お互いが夢を主張し、ぶつかり合い、妥協点は全く存在しなかった。  楽しい時間ばかりではない。何時かは試練が訪れるのだ。私達の関係は、試練に対抗するには脆弱過ぎるものだったのかもしれない。 「さよなら……」  この一言で、私達の関係の全ては崩れ落ちたのだ。崩れ落ちた瓦礫の中に、暫く立ち竦んでいたけど、私は夢に向かって走り出した……。  
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