ノスタルジア

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   我に帰る。  広場の喧騒が響きだす。止まっていた時間が、再び動き出すかのように。  目の前には、いつの間にか、積み木のように角砂糖が積み上げられていた。  指先は何も考えることなく、角砂糖を撮んでいた。  何でこんな事をしていたんだろう……。  分からない。  全ては無意識の成せる技なのだろうか。  これからどうしようかな……。  左手で髪をかき上げながら、自問自答を始める。  もう少し、F国で頑張ってみる?  無理でしよう。  自分がどれだけ無力かは、良く分かったから。  故郷に帰ろうかな……。  故郷に帰って、何をする?  帰ってから考える。  駄目だよね。  ある程度の未来図がないと、何をやっても駄目でしよう。  けど、未来を考えるなんてレベルではない。一秒先ですらどうして良いか分からない。  それでも先のことを、考えなければならない……。  不意に積み上げていた角砂糖が、音も無く崩れ落ちる。  角砂糖が飛び散り、慌てて立ち上がり、両手で砂糖の粒を払う。勢い余って、椅子を後ろに倒してしまった。  行動だけでなく、椅子の倒れた音も目立ってしまい、思わぬ注目を浴びてしまう……。  何をやっているのだろう……。  自分が嫌になってくる……。 「大丈夫ですか?」  さっきのウエイターの人が、優しく声をかけてくれた。 「大丈夫です。すいませんでした」  気の効いた返事が出来ず、椅子を起こしながら、笑顔で誤魔化す。 「良かった。そのままで大丈夫ですよ。こちらで片付けますから」 「本当に申し訳ありませんでした」  私は立ち上がり、頭を下げた。 「気にしないで下さい。お客様だけでなく、素敵なスーツも無事で良かったです」 「あっ、ありがとうございます」   慌ててお礼を言う。 優しく対応してくれたウエイターが去っていく後姿を、暫くじっと見つめていた。  椅子に座り、冷めたコーヒーを一気に飲み干す。  決めた!  もう少し、頑張ってみる!  私のデザインを素敵だと言ってくれた人が一人いた。今の私にとっては、十分過ぎる評価だ。  挫けそうになったら、彼の事を想い出せば良い!  そこに光を見出すことが出来るのだから! FIN
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