ノスタルジア

4/4
前へ
/4ページ
次へ
   我に帰る。  広場の喧騒が響きだす。止まっていた時間が、再び動き出すかのように。  目の前には、いつの間にか、積み木のように角砂糖が積み上げられていた。  指先は何も考えることなく、角砂糖を撮んでいた。  何でこんな事をしていたんだろう……。  分からない。  全ては無意識の成せる技なのだろうか。  これからどうしようかな……。  左手で髪をかき上げながら、自問自答を始める。  もう少し、F国で頑張ってみる?  無理でしよう。  自分がどれだけ無力かは、良く分かったから。  故郷に帰ろうかな……。  故郷に帰って、何をする?  帰ってから考える。  駄目だよね。  ある程度の未来図がないと、何をやっても駄目でしよう。  けど、未来を考えるなんてレベルではない。一秒先ですらどうして良いか分からない。  それでも先のことを、考えなければならない……。  不意に積み上げていた角砂糖が、音も無く崩れ落ちる。  角砂糖が飛び散り、慌てて立ち上がり、両手で砂糖の粒を払う。勢い余って、椅子を後ろに倒してしまった。  行動だけでなく、椅子の倒れた音も目立ってしまい、思わぬ注目を浴びてしまう……。  何をやっているのだろう……。  自分が嫌になってくる……。 「大丈夫ですか?」  さっきのウエイターの人が、優しく声をかけてくれた。 「大丈夫です。すいませんでした」  気の効いた返事が出来ず、椅子を起こしながら、笑顔で誤魔化す。 「良かった。そのままで大丈夫ですよ。こちらで片付けますから」 「本当に申し訳ありませんでした」  私は立ち上がり、頭を下げた。 「気にしないで下さい。お客様だけでなく、素敵なスーツも無事で良かったです」 「あっ、ありがとうございます」   慌ててお礼を言う。 優しく対応してくれたウエイターが去っていく後姿を、暫くじっと見つめていた。  椅子に座り、冷めたコーヒーを一気に飲み干す。  決めた!  もう少し、頑張ってみる!  私のデザインを素敵だと言ってくれた人が一人いた。今の私にとっては、十分過ぎる評価だ。  挫けそうになったら、彼の事を想い出せば良い!  そこに光を見出すことが出来るのだから! FIN
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!

25人が本棚に入れています
本棚に追加