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「じゃあね。奈々」
「また明日」
6月。久しぶりに傘の要らない火曜日。
友達と別れて、ひとつ息を吐いて家に向かって歩いていると、背後から走ってくる足音がした。すぐ後ろまで来た時ひょいと左に避けると、つんのめった山下唯人はそのままコケるかと思ったけど、なんとか体勢を立て直す。
「……つまんねー奴」
呟いてまた歩き出そうとすると、奴が言った。
「ちょ、ちょっと待てって。各務」
「なに。別にあたし用ないんだけど。てゆーか毎日毎日ひとのリュックにぶつかって来るのウザいんだけど。バスケ部の主将ってそんなヒマで体力余ってんの?」
「ヒマじゃねーけど体力は自信ある。学校からここまで追っかけてきた」
「自主練?」
「違うって……だから、毎日言ってるだろ。付き合ってくれって」
走ってきたわりにはそんなに息乱してもないし、鍛えてるのは嘘じゃないとは思うけど。
「ごめん。山下に限らず、そーゆーの本当に興味ないし受け付けてないから」
切ったばかりのショートの襟足。
ツンツンと毛が立ってるあたりをガサガサと掻きながらあたしは言った。
「てかさ……あんたモテるじゃん。下級生とかにも。なんで?」
「なんで、って。そりゃ俺がカッコいーから……」
「じゃなくて、なんであたしなんだっての」
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