1/2
106人が本棚に入れています
本棚に追加
/17ページ

 夕方、自習室でノートを広げていると、山下が来て肩を叩いた。 「ごめん。待たせた」  小声で言われてあたしは席を立つ。  他に生徒は居なかったけど、担当の先生が教卓に居るので静かに教室を出てから言った。 「ホントだよ。急に、帰り話したいとか言うから、いい迷惑」 「悪い」  もうほとんどの生徒は帰って、人気のなくなった廊下を歩きながら山下が言う。 「昨日、その……なんか言われた?あの人に」 「カッコいい子じゃない、って言ってたよ。そんだけ」 「……そか。いや、なんか変に突っ込まれてたら悪かったと思って気になってた」 「麻子さんは、余計なことは言わないよ」 「……いい人だな」 「うん」  頷いてから、あたしは言った。 「だから、あたしさ、……世間の常識みたいなものがいまいちよく分からないっていうか、信用できないんだよね。麻子さんもおじさんも、本当の親じゃないけど、でも不満はないし、周りはかわいそうみたいに言うけど、いや、あんたたちの方がよっぽど親嫌いでしょ?って思う。両親喧嘩ばっかりで家帰るの嫌って子も居るし」 「……ん」 「だから山下とも付き合いたくないんだ。嫌いじゃないけど、たぶんあたしは人といろいろズレてるから」
/17ページ

最初のコメントを投稿しよう!