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何事もなかったようにハンバーガーを食べるおじさんを見ているうち、涙が出そうになって、あたしは慌てて席を立った。
「ごめん。ちょっとトイレ行ってくる」
急ぎ足にフードコートを出たところで涙がこぼれて、慌ててハンカチを取り出していると前から来た人が足を止めた。
「……各務?」
山下だった。私服で、友達と一緒の。
「……わり。先行っててくれ」
好奇心むき出しの目で見る彼らに言って、山下はあたしに向き直る。
「この前は……っつか、どうした?」
「え?あ、ううん。なんでもない」
と言うのも無理あるけど手で拭ってたら、山下が言った。
「……この前、ごめんな。無神経だった。ヒドいこと言ったな」
あたしは首を振った。
「いいよ。もう。多分その通りだから。……でも、もう大丈夫」
「え?」
「あのさ、……良かったら会ってく?あたしのお父さん。ってほんとはおじさんだけど、今そこに居るから」
山下は一瞬迷う表情を浮かべた。
「……いいのか?」
「なんで」
「いや、なんか……彼氏紹介するみて―だろ。それ」
「それでいいけど、どっちかって言ったら、おじさんを紹介したいんだ。山下に」
「……そっか。そんじゃ」
「うん。……こっちだよ」
手を取るのは照れ臭いので腕を引っ張ったら、腕組むみたいになってしまったけど、あたしは奴を連れておじさんの元に歩き出した。
『あたしのお父さん』了
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