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黙ってしばらく向き合っていると、やがて奴はぽつりと言った。
「そんなら、話してくれないか?」
「は?」
「何も知らないくせにって言うなら、各務のこと教えてくれ。……俺は各務が好きだし、味方になりたいから」
あたしは奴を見上げた。ひっぱたかれて、ちょっと赤い顔して、それでも正面からあたしを見下ろしていた。
「……お母さんは、あたしが幼稚園に入る前に病気で亡くなった」
息をついて、あたしは続けた。
「お父さんだった人は、小3の時いなくなった。どっかで生きてはいるらしいけど、あたしはおじいちゃんおばあちゃんちに引き取られて、それからお母さんのお兄さん、あたしのおじさんが引き取ってくれた。それまでは遠藤奈々。その時から各務奈々になった。そんだけ。気が済んだら帰って」
言い捨てて歩き出すと
「各務!」
声が追ってきて肩を掴まれた時
「奈々ちゃん。彼氏?」
と後ろから聞き慣れた女の人の声がした。
「違う。ただのストーカー」
振り返ると
「あ、そ。まあいいけど。ねえマンションも近いし、路上でそれは近所にも響くし、話なら家に来てもらえば?」
しれっと言う女の人を山下は不思議そうに見る。
「……麻子さん。おじさんの友達」
「どうも」
にこりと麻子さんは笑う。
「奈々ちゃんちで二人きりが問題あるなら、うち来る?」
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