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「じゃ、どーぞ。ごゆっくり」 「ゆっくりしないから」  あたしの言葉に麻子さんは笑ってリビングのドアを閉めた。  数秒して、山下が声をひそめて言う。 「あの人って」 「だから、おじさんの友達」 「……彼女とか?」  あたしは首を振って、麻子さんが出してくれた麦茶に手を伸ばした。 「たぶん違うと思う。中学の時の同級生で、別に付き合ったりはしてなかったらしいんだけど、あたしが小5の時にたまたまこのマンションに越してきたの」  釣られたように山下も麦茶を取る。 「……それ、ただの偶然?」 「らしいよ。お互い、最初は気づいてなかったみたいだし」 「ふうん……」  訝しげに眉を寄せる山下に、あたしは言った。 「おじさん、学校の先生やってんの。先生って意外に忙しくて夜も遅くて休日も部活で出勤だったりするわけ。で、見かねて麻子さんがご飯とか果物とか差し入れてくれるようになって。そっからなんとなく仲良くなって。だから、おじさんよりあたしの方があの人と喋るくらい」 「じゃあ、……おじさんの彼女ですらないけど、各務のお母さんみたいな感じ?」
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