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「送っていかなくていいの?」
玄関からリビングに戻ると、キッチンから声がした。
「別に小学生じゃないんだから帰れるでしょ。麻子さん、今日帰り早くない?」
「ちょっと生理痛辛くて。まだ仕事あるんだけど明日にして帰ってきちゃった」
麻子さんは製薬会社の事務の仕事をしている。飲んでる痛み止めは他社のだと前に言ってたけど。
「そんな時にあんなの来ちゃって平気だったの」
「大丈夫。今部屋で寝てたし。そこそこカッコいい子じゃない」
「一応バスケ部の主将だし、人気もあるよ」
お味噌汁のいい匂いと、炒め物の香ばしい匂いがする。
「何作ってるの」
「キャベツと油揚げの味噌汁。麻婆茄子。食べてく」
「うん」
「じゃあお風呂掃除頼んでいい」
「了解」
あたしは、自分ちのようにお風呂場に行く。
まだ初めのうち、ここでご飯をご馳走になるようになって、おじさんが食費その他としてお金を渡そうとしたらしいけど、麻子さんは受け取らず、代わりに何か『お手伝い』をしてくれればいい、と言ったんだそうだ。それを聞いたのは中学生になってからだけど、その前から麻子さんは普通にお手伝いを頼んでいたし、あたしもそれをすることに不満はなかった。
風呂掃除を済ませて戻ると、テーブルにはもう食事が並んでいた。
「ごめん。盛り付けくらいあたしやるのに。辛くない?」
「さっき薬飲んだから平気。食べよ」
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