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 市販の素を使わない麻婆茄子はぴりっと辛くて美味しい。麻子さんはどっちかといえば雑だけど、自分の好きな食べ物には手をかける方だ。 「あのさ」  お茶椀を置いて、あたしは言った。 「父の日。何あげたらいいかな」 「聞いてみれば?」 「それはつまんないじゃん。かといって、自分で考えるのはもうネタ切れだし」 「奈々ちゃんが選ぶなら何でも嬉しいと思うけど。各務君は」  麻子さんは、おじさんを各務君と呼ぶ。中学生の時から変わらないらしく、そのちょっと他人が入ったようなトーンもずっと変わらず、本当にただの友達なんだろうなと思う。 「去年はなんだっけ」 「去年もその前もネクタイ」 「いいんじゃない。一番要るものだし」  麻子さんは2本目の缶ビールを開ける。44歳。太ってはいないけど、細くもない。気をつけなきゃとご飯は減らしてるけどビールは減らせないみたいだ。 「今度会ったら聞いとこうか?」 「いいよ。麻子さんが聞いたらバレバレだよ」  帰りはおじさんの方が遅いけど、朝は時々顔を合わせるらしい。 「お代わりもらいます」 「どうぞ」  自分でご飯のお代わりをよそって席に戻って、あたしは言った。 「なんかさ、おじさんって、あたし引き取ったためにすごい人生損してる気がして」 「どうして」 「だって結婚もしないし、休みの日は寝てるだけだし」 「それは奈々ちゃんに関係なく、各務君の問題じゃない?出会いがないのも忙しくて疲れてるのも」
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