居酒屋にて

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居酒屋にて

「えーと。じゃー、とりあえず?おつかれー」 「おつかれさまでーす」  山内さんの気の抜けた音頭で、俺は山内さんのグラスに自分のグラスを軽く当てた。山内さんはグイッとグラスをあおってビールを流し込む。俺もノンアルビールをちびりと口に含む。 「はー、うま。久々に落ち着いて酒が飲める。最近は飲んでても気い使ってばっかだったから」 「それはお疲れ様です」 「こうして谷さんと飲むのも久々だな。あれ?前に2人で飲んだのっていつだっけ?」 「えーと…もう3ヶ月前くらいかと」 「え?まさか、谷さんの前のテレワークの時?やだなあ、もうそんなに時間たってんの?」 「お互い仕事も忙しくなりましたし」  俺が元々派遣で峰藤商事(みねふじしょうじ)に入ったのと、山内さんが異動で営業に来たのがちょうど同じ時期だった。そのため、年齢が近いのもあって山内さんはよく俺に構うことが多かった。たまに冗談を言うくらいで変にイジることはなく、仕事をしっかりやるタイプだったため、俺も山内さんに対してそんなに悪い感じはしなかった。だから、たまに山内さんから誘われる飲みも基本的には断らなかった。 「明日から谷さんがいないのか…寂しいなあ」 「大袈裟です。会社に来ないだけで、別に仕事の連絡は取れますから」  俺は明日から約1週間、在宅勤務(テレワーク)に入る。というのも、これから発情期に突入するからだ。  発情期はオメガ特有で、3ヶ月に1回の頻度で来て、約1週間続く。その間は自分の意思に関係なくフェロモンが放出され、アルファを(時としてベータも)性的に寄せ付けてしまう。本人も発熱して意識が朦朧とするため、育児休暇や生理休暇と同じように休暇を取得することが可能だ。  しかし悲しいかなこの現代社会、1週間連続で休みをとるのは色々と厳しい(本来そういうことはあってはならないのだろうが)。俺の場合、身体がどうにもならなくなるのは2、3日程度のため、そういう日だけ休暇扱いにして、その前後の比較的楽な時は様子を見つつ、可能な範囲で家で仕事をするように会社と話をつけていた。
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