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○○神が隠す、アレコレ
「いいカモが手に入った」
――ん?
驚いて見上げると、ニッコリしていた顔が、人の悪そうなニヤリ顔に変わっている。
「人が良いんだろうなぁ。散々厄介事に巻き込まれ続けただろうに。こりゃ、あいつが溺愛するわけだ」
――あいつ?溺愛?
聞き捨てならない言葉が羅列される。
「・・・・・・待った。私の仕事内容、もう一度確認させてもらっても?」
真剣な目を向けて問うと、厄が詐欺師まがいの胡散臭い顔で答えた。
「嬢ちゃんの場合は才能に満ち溢れているから、指定された人か場所に、ただ居ればいい。座敷童のようにな」
座敷童?
そう心の中で呟いて、私は気が付いた。
厄病神が座敷童のように居憑いたら、幸福じゃなくて、文字通り、厄介事を呼び寄せるんじゃなかろうか、と。
「面倒事を持ってくるってんで、うちの課の人間は嫌われるんだ。周りに嫌われまくられるから、身内同士は仲が良い」
――やっぱり!!!
ブラック企業と同じ手口で、契約してから暴露した。
「ちなみに、嫌われ度ランキングは、常に2番手だ」
2位じゃ駄目なの?と言って世間を騒がせた人がいたが、1位じゃないことにホッとすることもあるらしい。
「ちなみに、1位は?」
「貧乏神課」
成程、それは嫌だろうなと、私は苦笑いする。
「そうそう、生前、お嬢ちゃんにウチの課の不治野 疫 って奴が時々様子見に行っててな。厄病神が憑いてるわけでもないのに、気が付けば厄介事の中心にいる面白い娘がいるって、話しには聞いてたんだ。あいつ、たまに可愛がってやろうとか言って、バージョンアップしてこさえた厄介事プレゼントしてたみたいだが、まさかこんなに早く出会えるとは」
何だそのプレゼント。受け取ってもいないのに、勝手に封を切って開けている感じがプンプンするこの何とも言えない腹立たしさ。
しかも、またまた名前にピッタリな職である。
「あいつ、嬢ちゃんが仲間になったって聞いたら、喜ぶぞぉ」
何か、嬉しくない。厄病神に喜ばれても、嬉しさ半減どころかマイナスだ。
「というわけで、宜しくな。先崎歩杏さん、か。読みを変えたら、ウチの課に来るべくして来た人の名前だなぁ」
先々不安、と読みたいのだろう。実際、そうやってからかわれた。
「えっと、さっきの雇用契約書、やっぱり返してもらっても・・・・・・」
「もう回した。今頃、承認印押されてるぞ」
油断も隙も無い。というか、いつの間に回したのか。とにかく仕事が早かった。
がっくりと肩を落とすと、厄さんがカラリと笑う。
「まぁ、そう落ち込むなって。悪いことばかりじゃねぇはずだから」
ニッカと笑ったその顔は、胡散臭さしか感じない。
「厄病神の言う悪いことばかりじゃないって、どんな出来事ですか」
じとっと向けられた目をもろともせず、カラカラと笑う。さすが厄病神、ちょっとやそっとじゃ落ち込まない。人のプチ不幸は大好物である。
「お、正式な配属書、来たぞ。歓迎会、いつにしようなぁ」
ビーと送られてきたFAXを見て、厄が目を輝かせて言う。
――生前、厄病神溺愛体質だと自負していましたが、この度、めでたく厄病神課に配属されました。
「明日から仕事な。今日は宿舎でゆっくりするといい」
――幽霊の才能はありませんでしたが、神様になる才能はあったようです。
「分かりました」
私、先崎歩杏は、明日から神様になります。
――ただし、厄病神ですが。
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