初出勤

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初出勤

 翌日。宿舎で休んだ歩杏は、届けられた服に(そで)を通して初出勤した。  届けられた服、というのは、制服ではない。昨日の夜、宿舎に段ボールに入った贈り物が届いたのだ。  差出人は不明(名前はあるが、知らない人)。  あの世に来たばかりの歩杏に、そんな贈り物をしてくれるような知り合いはいない。  中身はオフィスカジュアルな服だけでなく、ちょっとオシャレなカジュアル服や下着、靴やカバン、ちょっとした日用品まで入っていた。しかも不思議なことに、服はサイズピッタリ。服だけならまだしも、下着や靴までサイズピッタリなので、気味の悪さに気分が悪くなった歩杏である。  まさかこれ、新手(あらて)詐欺(さぎ)かなんか!!?  ネットのクリック詐欺みたいなタイプで、プレゼントを送りつけておいて、開けたら1億円!!みたいな法外な請求が届くとか・・・・・・?いや、法律あるか知らないけど。  あの世まで詐欺が横行(おうこう)しているなら、世知辛(せちがら)い世の中である。  心配になって、届けてくれた寮母に確認をした。  すると、「身元確かな人からの贈り物だそうだから、大丈夫よ。(もら)っておきなさい」と、近所の世話好きなおばちゃんのように口元に手を当てて、「ウフフ若いっていいわね」と最後にハートマークを飛ばした。まるで、彼氏からの贈り物でも届けたかのような反応である。  ちなみに、死んだ歩杏に現在、彼氏はいない。現世にも、あの世にもだ。  そういうわけで、歩杏はとりあえず有難(ありがた)く受け取って、使わせてもらうことにした。当分は、衣料品を買わなくて済みそうである。  職場は、宿舎から徒歩5分。地下でも繋がっているそうなので、雨の日は濡れずに済みそうだ。  あの世で雨が降れば、の話だが。  気持ちの良い青空が広がっていたので、歩杏は外を歩いて初出勤することにした。
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