生前

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 彼氏と別れて1年後。  今度は、会社が基幹システムを入れ替えた為、地獄絵図を見る羽目になった。  名前からして、ちょっと心配なシステムだったが、予想は大当たりしたのである。  その時の立ち位置は、システムエンジニアのすぐ下。新しいシステムの使い方マニュアルを作る仕事を与えられた為、使い方を知る、唯一の事務員になっていた。  のちに、後輩に「ポンコツシステム」と呼ばれるこの基幹システムは、稼働開始から元気いっぱい従業員を振り回し、退職者を星の数ほど出し続け、生みの親であるシステムエンジニアを寝かせない、休ませない、私を愚弄(ぐろう)したお仕置(しお)きよとばかりに、一か所不具合を直したら正常稼働していた部分3か所以上でエラーを発生させ、まるで生き物のように日々エラーを更新、新たな現象を起こしまくって、進化(イノベーション)し続けるトラブルメーカーと化す偉業(いぎょう)を成し遂げ、子守をさせられ続けたシステムエンジニアを廃人寸前まで追い込んだ挙句(あげく)に、半年で伝説(レジェンド)を作り上げたそのハリケーンのような激烈(げきれつ)でパワフルな短い生涯を閉じた。  その時の私はと言えば、吹いて飛ばされる程の微力ながら、何とかシステムエンジニアや現場の社員を悪者にすることなく、この危機的状況を乗り越えようと奔走(ほんそう)しまくったせいで、顔に死相(しそう)が浮いていた。初めて見る、自分の死相(しそう)である。  そこまでしたが、本当に役に立ったのかどうかは、不明だ。
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