生前

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 更にその1年後。  勤め先の営業所が閉鎖された。名目(めいもく)は本社統合だが、実質潰れたのである。  これを機に、ブラック企業と決別する意思を固め、うっかり突発性難聴を発症するも、新たな航海へと出発した。  が、その門出に。 「30も過ぎた結婚も出来ねぇ女なんて、人格に問題があるから俺なら雇いたくない」  引継ぎに派遣されてきた本社の営業マンにそんな暴言を吐かれ、退職後2ヶ月、今までの心労も祟ってか、食事以外は死んだように眠り続け、3ヶ月目は、一日起きて座っていられるだけの筋力がなくなって、このままじゃヤバイ、と職業訓練に申し込み、3ヶ月間で何とか元通りになった私は、異業種へ転職した。  が、めでたしめでたしにはならない。  今度はそこで、社内イジメに遭う。  毎日の監視されているかのような言動と、人格否定、嫌味、どう考えてもいちゃもんだろと思うような注意(世の中ではこれをパワハラという)、冤罪(えんざい)、自分の思うように私が動かないことに対して腹を立て、毎回あれもこれも怒鳴(どな)り散らすその声から、自分が怒られているわけでもないのに、怒鳴(どな)り声が聞こえると(本当は怒鳴る程のことでもない)、恐怖から手が震え、仕事に行こうとすれば吐き気に襲われ、いつの間にやら自分は何も出来ないと自信も喪失(そうしつ)し、職場では、出来ることはすべてやり、ペコペコ頭を下げるだけのサンドバックとなった。  新人教育だと、はき違えた暴言を繰り返され、精神を病んだのである。  ああ、このままではあのモラハラ彼氏にやられた時の状況と一緒になってしまう。そう危機感を(つの)らせた私は、勇気を振り絞って、4か月で退職した。  世の中の評価はどうあれ、自分としては、よく頑張ったと思う。  それからすぐに転職活動は出来なかった。  新たな職場へ行く勇気も出ず、辞めた職場から取れと言われた資格を取得する為に、専門学校へ入学していたので、宿題にも追われる。心を癒しながら、自腹で授業料払いこんであるし、資格は取り切ろうと半年間、学校へ通った。  が、試験で落ちる。  もう一度チャレンジしようとも思うが、このままでは通帳残高もヤバイ。  どうしようと思っていた矢先に、どうやら死んだようだ。  意識が戻って、手続きあちらですと言われてやってきた役所なのか、死後ハローワークなのか分からない(来たら求人票見せられ、選ばされた)この場所で、「あなた、幽霊の才能ありません」と眼鏡をかけたカマキリ顔の性格きつそうなお姉さんに言われたのである。
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