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自分の身体の上に馬乗りに乗った老婆を見ながら、歩杏は厄病神の力を使おうと必死に頭を働かせていた。
とりあえずはあのナイフだ。あのナイフさえ無くなれば・・・・・・。
そう祈り続けると、空から声がする。
「俺の歩杏ちゃ~ん!! ヒーローが助けに来たよ~!!」
聞き慣れた、しかし不安しか抱かない声。
―― 待った。この状況を更に泥沼化させようとしてるんじゃないの? あの人!!!
死の恐怖にプラスアルファで、心臓に悪いものが現れた。
間違っても、あの声の持ち主はヒーローではない。
鼓動がドクドクと忙しなく鳴り、血の気が引いていく。それはナイフを向けられた時以上に。
“ 助けに来てくれたの? 嬉しいわ ” などという感情でこんな症状が出ているわけではないことだけはハッキリと分かる。
「よ・・・余計なことしないで!!」
「遠慮しないで。俺の愛を受け取って」
建物の屋上で、バサァっと持っているゴミ袋をひっくり返したのが見えた。
2色の粉雪のようなふわふわしたモノが、空から降ってくる。
―― あれ、某映画に出て来るススワタリじゃないよね・・・?
その証拠に、ケサランッパサランッという鈴の音のような歌声に混じって、鼻づまりで熱まで出ているのか、ゲザランッバザランッという重たく病原菌のような呻き声が耳に届いた。
何やら不気味で趣味の悪いデュエットをしながら、空から降ってくる。
「ぎゃああぁぁぁぁっっ!! 何をばら撒いてるんですか!!」
ヒーローなどでは決してない。現に今、命の危険を感じている。
正直、ナイフよりあっちの方が恐怖だ。
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