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視界の片隅で、山居が屋根のあるところまで避難したのが見えた。
老婆はというと、落ちて来た綿毛を切り刻むかのようにナイフを振り回している。
逃げられない歩杏のところにも、とうとうその物体が落ちて来たから、手を顔の前に持ってきて当たらないように防いだ。
その綿毛は手に当たると、ポンッと弾けて消える。
―― これ、触れるとどうなるの・・・・・・?
まるで死刑宣告を受けたかのような恐怖に駆られると、老婆は綿毛を相手にすることを諦めたのか、歩杏に目を向けた。
「お前に復讐さえ出来れば、私はどうなってもいい。だから、死ね――!!」
頭上に振り上げられたナイフが、自分の胸目がけて振り下ろされる。
―― もう駄目だ。やっぱり私には、何の才能もなかった。
目を閉じて、覚悟を決める。
「・・・・・・?」
どれくらい目をつぶっていたのだろう。いつまで経っても、振り下ろされたナイフは胸に届かなかった。
そっと目を開けると、老婆が唖然として空を見上げている。
そこには帆に ” 宝 ” と書かれた船が一隻、ふわふわと飛んでいた。
―― ナニアレ?
見れば、その船から垂らされた釣り針の先に、ナイフの柄に付いているリングが引っかかって、老婆の手を離れて空中に吊り上げられていた。
「何やら重い。大物が釣れた気配がするぞ~!!」
「海老酢天、毎度同じことを言って、また長靴じゃないのか」
「何を言う樹路雨甚、今度という今度は大物に違いない!!」
なんとも呑気な声が、その船から降ってきた。
その船に乗っている人物は二人。
商売繁盛の神様である恵比寿天と、長寿延命の神様である寿老人の格好をした二人の老人だ。
「取り押さえろ!!」
警備員の格好をした男性二人が、船に気を取られた老婆をその場に取り押さえる。
歩杏はほっと息を吐くと、その場に寝たままぐったりとした。
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