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「おい樹路雨甚、竿が軽くなった。タイミング悪く雨男するのやめてくれ」
「ちょっ樹路のじいちゃん、こんな時に強風は駄目だって。釣り竿にかかってたの魂魄切断用ナイフで、下には歩杏ちゃんが……」
海老酢天と疫に責められた樹路雨甚が、船から下を見下ろした。
「娘がこの雨の中、地べたに寝そべってるようだが・・・雨浴が流行りか?」
「雨浴って何だ?」
「日光浴の雨バージョン」
神様達は時々おかしなことを言い始めるんだなと、戸ヶ里は冷めた目でそのやり取りを眺める。
「んん? あのカエル娘が首に下げた真珠……疫坊に頼まれて力を与えた真珠か?」
「そだよ~」
「ということは、あのカエル娘が疫坊の……?」
「いや~そう言われると恥ずかしいなぁ……」
テレテレとテレる疫の袖を、夢渡が引っ張った。
「その歩杏さん、どうやら意識を手放されたようですよ。先程のナイフ、彼女の腕を掠ったようですし……」
雨に打たれて血が流れるのが見える。
「え? 刺さったの!? 俺の歩杏ちゃん!!」
疫が慌てて屋上を後にし駆け降りて行くと、一同は肩を竦めた。
それを見て、樹路雨甚が満足そうに笑って団扇を仰ぐ。
雨が止んで、雲の切れ間から光が差し込んだ。
「雨降って地固まると言うだろう?」
「固まるんですか?本当に?」
呆れた顔をして屋上から見下ろす夢渡に、樹路雨甚はビニール袋の残りを寄越すように手をまねく。
そして持っている杖を一振りしてから、残りのケサランパサランを撒いた。
粉雪のような白い綿毛が、ふわりと風に乗って地上へと降り注ぐ。
ケサランッパサランッと鈴の音のように美しい歌声を響かせて、辺りを幻想的な景色に変えた。
「これで、長寿は約束したぞ」
そう言って微笑む老人は、船から二人を見下ろした。
地上では駆け付けた疫が、厄に向かって「救急車!!」と叫んでいた。
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