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「……あの老婆は逮捕された。取り調べはこれからだが、まぁ動機も本人が語っているし、殺意は否定していないから順当な裁判になるだろう。疫のケサランパサラン強奪については、樹路雨甚のじいさんと夢渡さんの口添えがあって、お咎めなし」
「そうですか」
「しかし、その真珠に樹路雨甚のじいさんの力が込められてたとは……。それがなかったら、落ちるナイフの軌道が逸れなかったかもしれないと夢渡さんに聞いた時はゾッとしたが。疫にしては良い仕事したな」
「でっしょ~? 俺の歩杏ちゃんへの愛が深い証拠だよ~」
「私それ、喜ぶべきなのか反応に困るんですが……」
この真珠のお陰で命が助かったのなら喜ぶべきなのだろうが、素直に喜べないのは単にこの疫のせいだ。ただ、助けようと色々無茶をしてくれたことは分かったので、そこについては感謝している。
ただ、それを言いたくないと思わせるような行動をするので、素直に言えなかった。
「まぁ何だ、とりあえずゆっくり休んで職場復帰すればいい。仕事、辞めたりしないだろ?」
才能ないとか向いてないとか、色々考えた。
でも、周りはそんな私を支えようとしてくれているし、この仕事の意味が分かった。
だから今は、忌むべき仕事じゃなくなっている。
「はい。復帰した暁には、またご指導宜しくお願いします」
そう言うと、厄も疫もホッとした顔で笑った。
もう少し、この人達と頑張ってみよう。辞めることはいつでも出来るのだから。
花瓶に花を生けた山居が戻ってきて、剥きかけのリンゴを剥いてくれた。
ぐったりとした病人の傍でそれを食べると、厄も疫も「お大事に」と言って帰って行く。
「待った。これ振りまいた本人なら、取り除くこととか出来るんじゃないの?」
「……それは、どうでしょう? 多分疫さん、そんなこと考えてケサランパサラン撒いたわけじゃないでしょうし」
「じゃ、白いケサランパサランを浴びたら、病状軽くなったりしない?」
「本来、あれの強奪は始末書で済むか分からないくらいやってはならないことですから、その覚悟がおありなら」
「そんなぁ……」
「養生してて下さい。大人しくしていればちゃんと治るんですから」
その夜、山居が口にしたように更なる高熱にうなされて苦しみ、私は1週間後に退院した。
職場に復帰してからもミスを連発したが、以前のように色々悩むことなく仕事に没頭している。
え?何の仕事に復帰したかって?
それはもちろん、人を不幸にする、厄病神のお仕事です。
END
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