28人が本棚に入れています
本棚に追加
「ここには、幽霊たちの日常が映し出されています」
ご覧くださいと言われて、モニターの前に座るよう促されると、私は画面に目を向けた。
夜の交差点だ。
とんでもないスピードで走ってくる車が、一台見える。
横断歩道には、会社員風の男性の姿。傍のガードレールには、死亡事故があったのか、花が手向けられている。
男性が、酔っているのか、ふらりと車道へ歩き出した。
「危ない!!」
私は思わず声を上げると、車道へ飛び出した男性は、避けることも出来なかった車に轢かれた。運転していた若い男は、慌てて車を止めて外へと飛び出す。
が、そこには何もいない。
確かに、人を轢いたはずだ。
首を傾げて車へ目を向けると、ボンネット、フロントガラスに、赤い手形が付いている。
まさか、車の下に!?
アスファルトに手をついて、車の下を覗き込むが、当然、そこにもいなかった。
じゃあ、車の後ろは?
止めた車の後方を見ても、人らしき姿はない。くるりと車の周りを一周するが、どこにも人の姿はなかった。
男が車に乗り込む。そして、シートベルトを締めて、シフトレバーとハンドルを握ったその時。
助手席に、髪の長い女が座っていた。さっきまでは、いなかった女だ。
男は驚いて、ガタッとドアに張りつく。
「・・・・・・ねぇ、どうして私を捨てたの?」
女が顔を上げた。
落ち窪んだ目、挫傷した頬、肉が抉れてしまって歯列が剥き出しになった唇。
「うわああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
震える手でシートベルトを外そうとガチャガチャとボタンを押し、手探りでドアを開けて転げ落ちる。
女は、重力も車の内装も関係なく、それはスマートに助手席から運転席へと移動した。
「・・・・・・あの女のが、良かった?」
ニタリと、裂けた口元が笑う。
「ばっ・・・・・・!!!」
男を、トラックのライトが暗闇に浮かび上がらせた。
化け物。その言葉を叫ぶより早く、鉄の塊に跳ね飛ばされる。
トラックの運転手が、慌てて降りてきた。
やってしまった、そんな顔をしながら、携帯電話を取り出してどこぞへと通報する。
その脇では、最初に轢かれたはずの男性が、車の陰から出てきた。一体、どこに潜んでいたのか。
最初のコメントを投稿しよう!