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では、次の映像をと、再びモニターを示された。
今度は、どこかの会社の社内のようだ。
モニターの右上に、” 残業時間、只今100時間/月 ” と書かれている。
生気のない、疲れ切った顔をした男が一人、パソコンに向かっていた。この男、幽霊だろうかと思って凝視していると、社員が話しかけている。どうやら幽霊は彼ではないらしい。
「これもやっておけ」
ドンっと、綴られた束が男性の机に叩きつけられた。多分、歳の頃から考えて上司だろう。意地悪そうな顔をしている。
「すみません、今、手一杯で・・・・・・」
「返事は “ はい ” だ。分かったか」
「・・・・・・はい」
感情を押し殺すように唇を引き結ぶと、彼は疲れ切った目を、再びパソコンへ向けた。
「課長、今晩、どうですか?」
キャピキャピした女が、先程仕事を押し付けた男に媚を売る。
「ああ、じゃあ1軒くらい行こうか。何か食べたいものは?」
「え~っとねぇ」
嬉しそうに考えながら、課長と連れ立って出ていく。
それを横目で捉えながら、男は溜息を吐いた。
カタカタとパソコンの前で仕事をしていると、何やらパチッという音がし始めた。男が音のした方へと目を向ける。
誰もいないはずの印刷室のドアだ。すりガラスの入っているそこに、何かがフロアを覗き込むように、顔を近づけたのが分かった。
「ひっ・・・・・・」
取っ手が、ガチャガチャと音を立てる。開くわけでもなく、ただガチャガチャと取っ手が上下するだけ。
だが、彼には効果的だったようだ。
足元にあるカバンを引っ掴み、慌ててフロアを飛び出す。恐怖から、エレベーターではなく、階段を駆け下りた。そして外に出ると、先程出て行った課長が女と共にいる。仲良さそうに、腕まで組んで、だ。
「おい、まだ仕事終わってないだろ」
「すみませんっ無理っすっ」
怒鳴りつけるが、彼はそう言い残して一目散に走り抜けていく。
「おい、その男、誰だ?」
残された二人の前に、一人のなかなかハンサムな男が立っていた。
その傍には、ショートカットの薄汚れた女の幽霊。
「え?あ、上司だけど?」
慌てて組んでいた腕を解くと、髪を直すように横髪を撫でた。
ハンサムな男の目が、疑惑に満ちる。どう見ても、浮気しているようにしか見えない。
「そんな女だったと思わなかった」
「誤解よ!!」
「じゃあ、何で腕なんか組んでるんだ!!」
「そ、れは、上司に対するサービスよ、サービス」
課長の目が、冷たく細められた。女が慌てて、言い訳を探す。
「サービス、そうか。俺を弄んでたわけか」
課長の手に、ポケットから取り出した果物ナイフが握られた。悲鳴を上げる間もなく、女の腹を突き刺す。
「そ、んな・・・・・・赤ちゃん、いるのに・・・・・・」
赤くじんわりと滲んでくる腹部に手を当てて、その場に膝をつき、倒れた。
映像は、ここで途切れる。
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