怪しげな探偵

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「それはな、探偵いうたらあまりにもハードルが高すぎるから、あえてそういう書き方にしとるだけのことなんや。なんか困りごとがあったとき、すぐに弁護士に相談しにいくアホが何処の世界におる? まずは近所のおっちゃんや町内会やろ。違うか? せやから、ワシも探偵いうて、偉そうにするんやのうて、依頼主の身近な存在になりたい、ちゅー気持ちを込めて、そういう書き方しとるんや」  素直に納得できるような言い分ではなかった。それでも、「あー、なるほど」と応えてやると、男は嬉しそうに頬を吊り上げた。 「ねーちゃんの質問はそれだけか?」  そう訊かれ、頷いた。すると、男は「今度はワシの番や」とまた上着の内側に手を入れて、今度は折りたたまれた紙を取り出した。そして、印籠を披露する助さんみたいに広げた紙をうやうやしく私の目の前に突き出した。 「先々週の土曜、昼の一時頃、この辺りで行方不明になっとる。ワシに捜査依頼が申し込まれたんが先週の金曜で、これまでに三十人ほどに訊き込み調査を行った。せやけど、目撃者は誰一人としておらへん――」  A4の紙には猫の写真が印刷されていた。何処にでもいるような茶トラの猫だった。 「……探偵なのに猫?」  私が呟くと、「最後まで聞かんかえ!」と男は何の前触れもなく怒鳴った。  通行人の何人かが脚を止め、こちらを振り向いた。けれど、すぐに顔を元の位置に戻し、進むべき方向へと歩み始める。 「この猫は、みゃー子や。依頼主は五十代の女性。この近くの住人で、会社を経営しとる。依頼主について公表できることはこれぐらいや。気になるとは思うけど、これ以上は言われへん。分かったな?」  私が小さく「はい」と返事をすると、男は満足げに「よし」と言って再び話し始める。
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