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静かに告げた僕のセリフに、崎坂くんは即座に言い返すことが出来ずに言葉に詰まってしまった。
それでも懸命に「そ……れと眼鏡のこととは、また別の話だろ」って言うの、実際のところ、僕はほんの少し可愛いなって思った。そう言ったら、きっと崎坂くんは怒るだろうけど。
「別の話かな?」
だからかな。ほんの少し彼に対する加虐心が頭をもたげて、僕は畳み掛けるようにそう言って、まっすぐに崎坂くんを見詰めた。
でも追い詰めすぎたみたいだ。
崎坂くんはハッと思い出したみたいに話を変えてきて――。
「っていうか、アンタこそ……アンタこそ、元カノとデートってなんだよ。しかも眼鏡まで選んでもらうとか……。一体どういう神経してんだよ」
さっきも思ったけど、何で麻衣子のこと、そんなに気にするの?
それじゃあまるで……。
「どういう神経って……。ま、麻衣子は、麻衣子のことは、こっちにだって事情が……」
あの時の麻衣子は失恋で傷心の身だったし、僕は友人として彼女を放っておくことが出来なかっただけだ。
何らやましいことはないんだけど。
「どういう事情があったらアンタの眼鏡をあの人が選ぶことになるんですか?」
そう思っているのに、こんな風に畳み掛けられると、まるで僕が悪いことをしたみたいにバツが悪くなるから不思議だ。
――でも、さ。だったら僕だって言っても……いいよね?
「で、でもそう言う崎坂くんだって……僕の知らないところで前の恋人に会ってたんじゃないか……っ」
これって結構会心の一撃だと思ったんだけどな。
「それはアンタの眼鏡を返してもらうためだろ?」
まさかそんな風に返ってくるなんて。
それじゃあまるで、僕が二人に合う機会を提供したみたいで悔しいじゃないか。
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