411人が本棚に入れています
本棚に追加
僕は崎坂くんの分からず屋ぶりに段々腹が立ってきて、思わずぐっと唇を噛みしめた。
あんまりにもモヤモヤして感情の昂ぶりが強すぎて泣いてしまいそうになる……。僕は思わず俯いた。
でも、これだけは言わせて?
「僕……僕は、そのために崎坂くんが立花さんに会うくらいなら、そのまま捨ててくれた方が良かったよ」
本気でそう思う。
二人で逢うための口実に、僕――の眼鏡――を使わないで!って。
さすがにそこまで言うのは女々しい気がして……心の中で叫ぶに留めたけれど、僕の真意は崎坂くんには伝わらなかったみたい。
「な……んだよ、それ……」
彼は興奮のためかベンチから立ち上がると、僕に向かって「だいたい、麻衣子麻衣子、立花立花って……アンタが好きなのは俺じゃねぇのかよ!」って眼鏡ケースを突きつけてきた。
僕は崎坂くんのその表情を見て、ドキッとする。それで、無意識に一歩彼に歩み寄ってしまった。
だって……まさかそれを言われるとは思ってもみなかったんだ。
僕は今まで散々崎坂くんに思いを伝えてきたつもりだったから。
「す……っ好きだよ! 僕は君が好きだ!」
まさか伝わっていなかったなんてこと、ないよね?
僕は不安に駆られて崎坂くんの手首をぎゅっと掴んだ。
華奢で折れてしまいそうだった麻衣子のそれとは違って、無骨で太くて、男らしい手。どんなにギュッと握っても僕の力じゃビクともしないような、そんな手。
だけど僕は……だからこそ余計に、その手を強く握って絶対に離したくない、と思ったんだ。
最初のコメントを投稿しよう!