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掴まれていた手首を、いっそう強く握られる。かちあった双眸が、射止めるようにまっすぐ俺を見る。
そして告げられた言葉に俺は言葉を無くす。
「ねぇ、崎坂くん。キミのほうこそ、僕のこと、好きだよね?」
どくんと一際大きく心臓が鳴った。ひゅ、と喉奥で音にならない音がした。
束の間、時間が止まったように俺はただ鈴木さんの目を見返していた。
「否定……しないんだ」
念押しのように言われても、俺は肯定も否定もできない。
頭の中が真っ白で――真っ白の中に、「好き?」という言葉だけが浮かび上がる。
「……っ」
堪えきれなくなった俺は、逃げるように視線を逸らした。
(俺が……嫉妬? 俺が……好き? ――この人を?)
腕を振りほどくこともできないまま、努めて自分に問いかける。
そんなわけない。そんなはずない。うぬぼれんじゃねぇよ――。
そう思いたい――言いたいのに、どうしても言葉が出てこない。
「――良かった」
ぽつりと、鈴木さんが呟いた。
思わず目を向けると、鈴木さんは嬉しそうに微笑んだ。その瞳にはうっすらと涙が浮かんでいる。
「良かった……」
「何、が……?」
辛うじて問い返せば、鈴木さんがさらに笑みを深める。その拍子に、目の際からぽろりと雫がこぼれ落ちた。
それを指先で拭いながら、鈴木さんは掴んでいた俺の手を少しだけ引いた。
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