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「否定されなくて良かった。それにその表情……」
「顔?」
「うん。顔に……そう書いてある」
「!」
俺はとっさに他方の腕で顔を覆った。
頬が熱を帯びている自覚はあった。耳までじんじんと痺れるように脈打っている感じも――言われてみれば強くなる一方だ。
「……崎坂くん、かわいい」
「っ――はぁ?!」
睨むように目だけを向けて、精一杯の虚勢を張る。
けれども、鈴木さんはそんな俺の態度すら嬉しいみたいに頬を緩めて、そのまま不意に歩き出した。
「っえ、ちょ……」
先を行く鈴木さんに引かれる手は、一度も放されることがない。
その先に握る眼鏡ケースがなんだかちょっと間抜けに映った。
気がつくと、前だけを向いて早足に進む鈴木さんの顔も、すっかり紅潮しているのが分かった。
(何だよ、それ……)
否定されなくて良かったとか。顔に書いてあるとか。
どんなに年上ぶって、悟ったようなことを言っても、鈴木さんだって内心めちゃくちゃ動揺してんじゃん――。
鈴木さんはまるで振り向くことなく――それでも手を緩めることも無く――無言で校門の方へと歩いて行く。
気まずいような沈黙の中で、必要以上に忙しなく感じる息づかいが聞こえる。同様に早鐘を打っているのだろう鼓動の音さえ、聞こえて来そうな気がした。
そんな鈴木さんの様子に、少しずつ頭が冴えてくる。
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