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「――どこ行くつもりなんですか?」
手を引かれるに任せたまま、俺は不意に問いかける。校門を通り抜け、緩やかな下り坂にさしかかろうとしていたところだった。
「っ、え……っ」
短い呼気を漏らして、鈴木さんは足を止めた。
反して俺は止まることなく歩き続け、間もなくその横に並ぶと、
「だから、一体どこに向かってんですかって」
「か、考えてなかった……」
凍り付いたように動きを止めてしまった鈴木さんが、これ以上ないくらいに顔を赤くしてそう答えた。
「……そんなことだろうと思った」
ため息混じりに呟くと、俺はそのまま鈴木さんの横を通り過ぎる。そして今度は、俺が彼を引っ張るようにして前を歩き始める。
「手、離したら置いていくから」
炎天下の坂道を下りながら、前を向いたまま他人事のように告げる。「アンタが受け取らないせいで、俺の手は埋まってるし」と揶揄混じりに続けると、さっきまでの意地はどこに行ったのかと思うほど簡単に、鈴木さんはそのケースを手に取った。
ともすれば奪うようなその勢いに、俺は呆気にとられつつも苦笑して――苦笑しながらも、どこかくすぐったいような気持ちで僅かに目を細めた。
「仕方ねぇな」
俺は誤魔化すように吐息すると、空になった手で鈴木さんの手を取った。
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