53.その心は【Side:崎坂智也】

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 *  *  * 「成田に会わないよう祈ってて」  鈴木さんの目が、「どこに……?」と少しだけ不安げに揺れていたから、ひとまず俺はそれだけ告げた。  いつもなら「その辺の公園ででもしましょうか」と揶揄いたくなるところだけれど、今の俺にその余裕はないらしい。 「成田と俺、下宿先(アパート)同じだから」 「……それって」  素直に答えると、鈴木さんは一瞬沈黙し、それから何を思いだしたのか、急に顔を赤くした。  俺の部屋って察したなら、そこから過日の夜のことを連想したりしたんだろうか。 「鈴木さんって……結構あれですよね」 「……あれ?」 「えっちですよね」  あえて真顔でさらりと返せば、鈴木さんの口から「ええ!」という聞いたこともないような声が上がった。  俺は思わず小さく噴き出し、堪え笑いに肩を揺らす。 (いや……マジ成田には見つからねぇようにしねぇと)  こんな状況あいつに知られたら、どんだけ面倒なことになるかわからない。  そう、心の中で改めて思いながら、それでも俺は鈴木さんの手を握ったまま坂道を下っていく。  *  *  *  玄関に立ち尽くしたままの鈴木さんの背後で、遅れてパタンとドアが閉まる。  その音にぴくりと肩を揺らすのが、今更すぎて何だかちょっとおかしかった。
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