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「あ……ま、待って。せめてシャワー……僕、結構汗――」
「いいよ別に。アンタそんな匂いないし」
元々体臭も薄いみたいだし、今日は――当たり前だけど――真咲さんの甘い匂いもしない。
「匂いって……」
「……それとも風呂場でやりたいってこと? 誘ってんの?」
この前みたいに? と揶揄うように口端を引き上げると、鈴木さんはますます顔を赤くして、
「誘……?!」
「違うの?」
「ち、ち、ち……っ」
もはやまともに言葉も継げず、ただ口をぱくぱくと開閉させている。
「あぁ、酒が必要ってこと?」
「え……?」
「酔ってた時はそんなのお構いなしだったけど、アンタ」
「そっ……それは……っ」
あえて羞恥を煽るような言い方を選ぶと、面白いように期待通りの反応が返ってくる。
まぁ、実際嘘は言ってないんだけど、普通なら言わなくてもいいことだろうとも思う。
きっと相手が真咲さんだったら、俺はこんなことは言わない。そもそも真咲さんが酒に流されるようなことはないんだけど、たとえそんな状況があったとして、真咲さんがこうまで必死な姿を見せるなんて……まず想像もつかない。
(……なんだ。やっぱ似てねぇじゃん)
思い至ると、また一つ答えが出せたような心地になり、俺は密やかに笑ってしまう。
「まぁ、もういいから。俺も今日は素面のアンタを抱きたいし」
「し……っ、…………っ?!」
俺の言葉に、ますますなんと言っていいかわからないという表情をする鈴木さんに、
「ーーで、いっぱい恥ずかしい思いをすればいいよ。恥ずかしがって、待ってって何度も躊躇すればいい」
「……え……そ、それは、どういう……?」
分からない? と俺は僅かに目を細め、ゆっくり顔を近づける。そして戦慄くように薄く開かれたままの唇に自分のそれを寄せ、吐息が掠める距離で囁いた。
「だからって俺はやめませんけどね」
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