53.その心は【Side:崎坂智也】

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「あ……ま、待って。せめてシャワー……僕、結構汗――」 「いいよ別に。アンタそんな匂いないし」  元々体臭も薄いみたいだし、今日は――当たり前だけど――真咲さんの甘い匂いもしない。 「匂いって……」 「……それとも風呂場でやりたいってこと? 誘ってんの?」  この前みたいに? と揶揄うように口端を引き上げると、鈴木さんはますます顔を赤くして、 「誘……?!」 「違うの?」 「ち、ち、ち……っ」  もはやまともに言葉も継げず、ただ口をぱくぱくと開閉させている。 「あぁ、酒が必要ってこと?」 「え……?」 「酔ってた時(この前)はそんなのお構いなしだったけど、アンタ」 「そっ……それは……っ」  あえて羞恥を煽るような言い方を選ぶと、面白いように期待通りの反応が返ってくる。  まぁ、実際嘘は言ってないんだけど、普通なら言わなくてもいいことだろうとも思う。  きっと相手が真咲さんだったら、俺はこんなことは言わない。そもそも真咲さんが酒に流されるようなことはないんだけど、たとえそんな状況があったとして、真咲さん(あの人)がこうまで必死な姿を見せるなんて……まず想像もつかない。 (……なんだ。やっぱ似てねぇじゃん)  思い至ると、また一つ答えが出せたような心地になり、俺は密やかに笑ってしまう。 「まぁ、もういいから。俺も今日は素面のアンタを抱きたいし」 「し……っ、…………っ?!」  俺の言葉に、ますますなんと言っていいかわからないという表情(かお)をする鈴木さんに、 「ーーで、いっぱい恥ずかしい思いをすればいいよ。恥ずかしがって、待ってって何度も躊躇すればいい」 「……え……そ、それは、どういう……?」  分からない? と俺は僅かに目を細め、ゆっくり顔を近づける。そして戦慄くように薄く開かれたままの唇に自分のそれを寄せ、吐息が掠める距離で囁いた。 「だからって俺はやめませんけどね」
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