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(暑ィな……)
眩しさに顔を顰めながら、ふと見上げた空は、雲ひとつ無い快晴だ。
7月に入り、ますます気温を増した外気には意識しなくても溜息が漏れる。
辿り着いた校門を潜り、頭上より下ろした視線を向けた先には、大学の規模にしては些か立派過ぎるとも言える図書館がある。
テスト期間に入ったばかりのこの時期は、図書館も普段より人で溢れているが、俺は本を借りて帰るだけなので問題はない。
「あ、おい。崎坂。崎坂智也」
目を開けているのも厭うような暑さに、伏目がちに歩いていると、不意にその背後より声がかかった。
俺は足を止め、僅かにだけ振り返る。
「……成田」
同様、口を利くのも億劫だったが、ひとまず短く答えると、相手の顔へと視線を投げる。
そこに立っていたのは、同じ学部、同じ科の成田克海。
一応学科内では親しいと言える友人の一人だ。
彼は然程もなかった距離を詰め、俺の前に足を止めると、
「図書館行くんだろ。俺も行くから、一緒に行こうぜ」
「……まぁ別に」
「ほら、俺落としてる単位の。何かいい本あったら、教えて貰おうと思って」
お前が『優』で受かったアレだよ。と、続けながら小さく肩を竦めた。
アレってどれだ言いたいところだが、なまじ親しいだけあって見当はすぐにつく。
「いいけど何か奢れよ」
「ヘーヘー、コーヒー位なら奢りますよ。それとも昼飯をご所望か?」
相変わらず、総じて軽い調子の男に、俺は一瞥を残して先に歩き出した。
すると彼もそれに続く。
「…じゃあ昼飯」
ややして、平坦にそう答えると、
「えぇっ、マジかよ」
彼は一瞬歩みを止めて声を上げた。
そのくせ、表情はそこまで大げさなものでもない。
「自分で言ったんだろ」
既に図書館は目の前で、俺は彼につきあって歩調を緩めることもなく、あっさり入口のドアを開けた。
遅れてそれに続く彼へと、やはり抑揚の少ない平坦な声音で、そう短く告げながら。
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