02.片思い【Side:鈴木孝明】

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「そーだ、崎坂。今気付いたんだけどさ、図書館員さんに見立ててもらったほうが早いんじゃね?」  そうすればさっきの(おご)りの話もチャラになるし。  そんな声が聞こえてきては、さすがに顔を上げないわけにはいかない。  恐る恐る二人のほうを見ると、満面の笑みを浮かべた友人に、崎坂くんが無言のまま溜め息をついている姿が飛び込んできた。  そんな風に不機嫌そうな顔をしていても、やっぱり彼は思わず見惚れてしまうぐらいカッコいい。 「――そういう資料は……三階の、えっとこの辺りに集中してると思うんで……そこから見繕ったらいいと思います」  こんな感じで司書と利用者としての接点しかない崎坂くんが、友達の付き添いとはいえすぐ傍にいることに、僕は必要以上にドギマギしてしまう。  そんな心情を悟られないよう、努めてゆっくりした口調で館内の案内図を指し示しながら、僕は成田くんの求めに見合いそうな資料が集めてある書架を教えてあげた。  成田くんと僕がやり取りをしている間、崎坂くんは一言も発さなかった。けれど視線だけは十分過ぎるぐらい感じていて、僕は耳が赤くなってやしないかと、そればかりが気になった。 「どうも」  そんな僕に礼の言葉を述べ、書庫に向かうべくきびすを返そうとした刹那、成田くんが盛大なくしゃみをした。 「あ――…マジすみません」  瞬間、手で口元を覆ってくれたけれど、一歩遅かったらしい。  彼の真ん前にいた僕の眼鏡は、見事に曇ってしまっていた。急に奪われた視界に、 (うわ……)  思わず眉をしかめそうになって……それでも一応利用者――と何より崎坂くん――の前だと気付いて、僕は何とか営業用スマイルを取り繕った。  そんな僕に、 「っていうか、あんたもマスクくらいしといたらどうですか? 身体、そんな丈夫な方じゃないでしょ」  意外にも、彼の背後に今まで無言で控えていた崎坂くんからそんな指摘を受けてしまった。 「ていうか成田、お前はそれ以前の問題だからな」 (僕が体調を崩しやすいの、知っててくれたんだ……)  余りに意外で嬉しい発見に、思わず彼を見詰めたら不機嫌そうな顔で睨まれた。  その眼光に射すくめられて、僕は結局何も言えないまま二人を見送る羽目になる。  カウンターに一人取り残された僕は、今日も彼に何も言えなかった自分を、ほとほと情けなく思った――。
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