第一章・―炎の魔女―

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「燃えてしまいなさいな」  赤くたなびく長い髪。深紅のマーメイドドレスを纏った、赤い口紅が似合う、妖艶な美女がそう言った。  赤く燃え上がるような、ルビー色の瞳が、目の前で腰を抜かす男を射抜く。 「ひぃ……!」  それが、男が発した全てであった。  美女の言葉を合図に、男の全身から赤い炎が立ち上がる。  見る見る内に燃え盛り。悲鳴もあげる事なく、男は物言わぬ炭と化したのだ。 「……」  その塊から、詰まらなそうに視線を逸らす美女が、長いため息を吐く。  決め細やかな頬に伝い落ちるのは、一筋の涙であった。  彼女の正体は、魔女である。  名前はサラマンドラ。  燃えるような見た目に(たが)わず、人々からは“炎の魔女”と呼ばれ、恐れられていた。  呼び名の通り、炎を操る術に長け、手足の如く扱う彼女は、今、心の底から怒っているのだ。  この世の総てを、憎んでいる――。  だから、僅かにでも気に入らなければ、総て壊す。  否。  跡形もなく、燃やしてしまう。  命乞いなどお構いなしだ。  情けなど絶対にかけない。  これは、“炎の魔女”による復讐劇。  誰にも邪魔はさせない。例え誰であろうと、邪魔をする者には、燃えてもらう。  そうした覚悟でサラマンドラは、また街を一つ分燃やし尽くした。  ただの一人も助けはしない。  だって……。  誰も助けてくれなかったから。  だから。  復讐は、サラマンドラにとって当然の行為なのだ――。
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