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「燃えてしまいなさいな」
赤くたなびく長い髪。深紅のマーメイドドレスを纏った、赤い口紅が似合う、妖艶な美女がそう言った。
赤く燃え上がるような、ルビー色の瞳が、目の前で腰を抜かす男を射抜く。
「ひぃ……!」
それが、男が発した全てであった。
美女の言葉を合図に、男の全身から赤い炎が立ち上がる。
見る見る内に燃え盛り。悲鳴もあげる事なく、男は物言わぬ炭と化したのだ。
「……」
その塊から、詰まらなそうに視線を逸らす美女が、長いため息を吐く。
決め細やかな頬に伝い落ちるのは、一筋の涙であった。
彼女の正体は、魔女である。
名前はサラマンドラ。
燃えるような見た目に違わず、人々からは“炎の魔女”と呼ばれ、恐れられていた。
呼び名の通り、炎を操る術に長け、手足の如く扱う彼女は、今、心の底から怒っているのだ。
この世の総てを、憎んでいる――。
だから、僅かにでも気に入らなければ、総て壊す。
否。
跡形もなく、燃やしてしまう。
命乞いなどお構いなしだ。
情けなど絶対にかけない。
これは、“炎の魔女”による復讐劇。
誰にも邪魔はさせない。例え誰であろうと、邪魔をする者には、燃えてもらう。
そうした覚悟でサラマンドラは、また街を一つ分燃やし尽くした。
ただの一人も助けはしない。
だって……。
誰も助けてくれなかったから。
だから。
復讐は、サラマンドラにとって当然の行為なのだ――。
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